秋になって、学校が始まった。新学期が始まり、周りからは夏休みの思い出が聞こえてくる。私はやっぱり誰とも口をきいていない。
それに夏は思い出したくない。
ウォークマンを耳につける。
あと半年通えば私は卒業する。









あれから私はずっと泣いていた。




恭ちゃんから何度か着信があったけど出ていない。1通だけメールがきていたが返していない。差出人は恭ちゃん。


一言だけ 『何してる?』 と。








学校と家の往復。また夜遊びをやめた。
ミントグリーンの車を見つけるたびに涙が零れた。
また迎えに来てくれるんじゃないかと…





今日も学校が始まる。何も変わらない生活。
変わったのは晃がいない事と私自身。
思い出す晃の瞳が輝いた。








下校の時間。学校の前に1台の車が止まる。
降りてきたのは恭ちゃんだった。
人を惹きつける魅力を持つ恭ちゃんは学校でも有名だったらしい。

後輩たちが恭ちゃんに挨拶をし、女の子達は恭ちゃんが来ている事で騒いでいた。


私を見付けると恭ちゃんは


『いた!』


と笑っていた。






恭ちゃんに近づき 『どうしたの?』と尋ねる。私は笑っていなかった。


『電話もメールも返事がないからさ!心配で来てみた。そしたらいた!』
恭ちゃんはまた笑っていた。

『ごめん。』とだけ小さく答えると『乗って!』と恭ちゃんが笑った。




車のなかで恭ちゃんは何も話さなかった。それがまた私を安心させた。
恭ちゃんはいつだって優しかった。変わったのは私だ。



夕方を過ぎあたりが暗くなっていた。
夏が終わり暗くなるのが早い。

恭ちゃんが連れて行ってくれたのは私の地元から近い夜景の見える山の頂上だった。




『降りる?』と聞かれ、『うん。』と答えた。
2人とも笑っていなかった。





『俺に話せる?』
恭ちゃんがつぶやいた。


その瞬間、また涙が零れた。


晃を思ってじゃない。


恭ちゃんはいつだって優しかったんだ。
いつだって心配してくれていたんだ。
恭ちゃんは私に会いに来たんだ。


なのに…それなのに…



申し訳なかった。
恭ちゃんの優しさを始めて苦しく感じた。




『まだ…まだ難しい。乗り越えていないの… 私は… 私はまだ立ち直っていないの… ごめんなさい… 』

うまく言えていただろうか。伝わっていただろうか。



『いいよ。』
恭ちゃんは笑っていた。

その笑顔さえ、今はもう苦しかった。


『ごめんなさい… 私… 』
その瞬間、恭ちゃんが私を抱き締めた。

『いいよ。大丈夫。話さないで。』

恭ちゃんの言葉でまた涙が零れた。






私の腕が恭ちゃんの腰にたどり着く。こわかった。
恭ちゃんの目は輝いていない。だけどいつでもまっすぐだった。
恭ちゃんは私を見つめた。


『一緒にいるから。』
恭ちゃんはまた笑っていた。








木々が紅く染まる頃。
17歳の私は恭ちゃんとキスをした。