出会ってから10年の月日が流れ、髪型が変わり遊ぶ場所も住む場所も変わった。


だけどまだ去年の服を着てる。



カウンターに座って、何事もなかったように話し始める。
かなりぎこちない。


10年前の夏から気持ちは何も変わっていない。


この10年、私たちはずっと繋がっていた。







初めて出会ったのは16歳の夏の終わり。
『晃』とだけ友達に紹介された。
真っ黒に日焼けした晃は瞳が際立って見えていた。
3つ年上で車を運転する晃がすごく大人のように感じた。
海岸に座ってお互いの話をする。住んでいる所や学校の話。





『え?第2高校?俺の地元のすぐ近くじゃん!』
『そうだよ!でも私の地元からも近い。』
『なら会おうと思えばすぐに会えるな…』



胸が高鳴った。そして言葉を返す事が出来なかった。
きっと海風のせいだ。夏の終わりの海風は少し冷たかった。






気まずい沈黙の後、彼が切り出した。
『ねぇ、誕生日はいつ?』
『3月21日だよ。晃は?』
『まじ?俺も!え?なら血液型は?』
『B型!』
『… 俺も』





何かの間違いだと思った。
こんな偶然は私の人生であと何回あるんだろう。奇跡だと思った。
何かが始まる。
予感は確信に変わった。







お互い話せなくなっていた。海風がさらに冷たくなる。
沈黙のなか風の音だけが聞こえていた。
でも、お互い気付いていた。
何か言えば2人の関係が始まってしまう気がしていた。



それがまだこわかったんだ。









『そろそろ送ろうか…』
年下の私を気遣ってくれているのか、
それとも…悪い予感がよぎる。





『うん。そうだね。帰ろ。』









車のなかでもまだ感じていた。
心地よい違和感。
これからへの期待。





私の家が近付く。
車を降りるとき何て言おうか考えていた。





『着いたよ。』
『あ、ありがとう。楽しかったよ。』



緊張しているのが分かる。『またね』と言えない。
言うのがこわかった。



『それじゃ、送ってくれてありがとう。』
きっとありがとうとも楽しかったとも言えないような顔をしている。



最悪だ。









『あ!また連絡するから!また会おう!遅くなってごめん。じゃあね。』





夏の終わり、少し肌寒かった。