仕事帰りの、いつもの夜。本日も何の変哲も無く1日が過ぎ、食事をしてお風呂に入ったら今日と言う日が終わるな、と。



入浴を終え、頭をタオルで拭いていると。鳴り響く着信音。この音は、通話だ。滅多に通話なんてしないのに、相手は誰だ。しかもこんな時間に。左手はタオル、右手は携帯で画面に表示される名前を確認すると、そこには秋塚蒼真の文字が。



私は驚いて、左手の動きを止めタオルを落としてしまった。




どうしたのだろう、彼との通話は実は初めて。もしかして、何かあったのか。考えてばかりでも仕方ない。早く通話に応じなければ。



「も、もしもし」



ボタンを押し、声をかける。携帯電話の向こうからは



「よー、真歩。こんばんは」



いつもの声だ。私の安心する、心地良くてかっこいい低音ボイス。




「こんばんは。珍しいね、電話だなんて」



「今日は休みなの。ビーーーるうまうま」



「え、ビール?お酒飲んでるの?」



「おー、別に酔った勢いで電話したとかじゃねーけど、なんだろな……。真歩の声聞きたくなった」



「えっ」



どうしてこの人は、サラリとそういうことを。



「真歩は、好きか?酒」



「んー、私お酒弱いの……。すぐに顔が火照っちゃうのよ、嫌いではないんだけどね。あ、ねぇねぇ。私にビールの美味しさ教えて!」



「ビーーーーるうめェ。しゅわわわスカッ!クゥゥゥゥーーーって感じ」



なんだか、お酒が入っている所為なのか蒼君が可愛い。



「ねぇ、なんでそんなに伸ばすの。ビーーーーーる。ふ、ふーん……。美味しいんだ」



「ま、ビールがうめぇと思えんのは1杯目だけだけどな。それも夏限定。つっても、夏ももう終わるがな」



「1杯目が美味しい?夏限定?そういうものなんだ。……ビールの美味しさがわからない私はお子様です」



「やーい、餓ーー鬼ィィーーー。…………あれ、俺の方が餓鬼っぽい……」



「ふふっ。ところで蒼君、休みの日って何してるの?」



「休みの日?そんな日は大抵予定が入ってるんで普段より忙しかったりするんだよな。今日は違うが」



「ほぉ……」



蒼君って、仕事の日だろうがそうでなかろうが、忙しいんだ。休みの日はする事が特に無い私とは違って。