蒼の歩み

私が撫でないとわかっていてからかっているのだろうかと、妙に心理戦な気持ちを抱きながらも、ここはあえて大きな釣り針に釣られてみることにした。



「じゃあ、遠慮なく?」



――そっと己の右手を差し出し、差しだし……。ダメだ、フリでもそんなことは出来ない。私の右手は空に置かれる。



「な、なんで今日はそんな積極的ナンデスカ……」



これだと私が触りたいみたいになってるじゃないか、と1人葛藤としているのを悟られぬよう、質問を投げかけてみた。



――そんな私の様子を見て、彼はフフッと笑った後、再びパソコンへと向き直った。あれ、なにこれ放置プレイなの。等と思っていると、キーボードに触れる彼。何を打っているのだろう、と覗いてみた。




『普段は積極的でハッキリとモノ言う印象だがそっち方面は奥手そうな相手、本当に触れる事は無いだろう、そう踏んで放った言葉だった。案の定伸ばされたその手は其れに触れる事無く止まった。』



「え、何コレ。えっ」



蒼君と画面を交互に見るも、彼は指の動きを止めずに打ち続けている。



『「あれ、遠慮しないんじゃねェのか」



分かりきっていたが敢えて聞いてみる。どんな表情が出てくるのか、少しの動きも見逃すまいと、相手の顔をにやりと意地悪そうな笑み浮かべ見据え。


「積極的な奴は嫌イデスカ?」



その手はどうしたいのかと問うようにチラリと手を見遣る』




「ん……?」



「今の状況、文字にしてみた。オメェが、打ってるとこ見たいって言ったんで」



「は、はぁ……」



よくもまあ、このような文章をスラスラと。料理も上手けりゃ、仕事も(多分)出来る。そして文章力も高いときた。なにこの人、弱点無しか。



というか私は、やはりからかわれていたようだ。ちくしょう!