怖い


という感情が


私の心を支配したけど
 

「黒石さん、ちょっと来てもらえる?」


私の口は


まだ、その怖さを知らなかった。

 
「あ、うん!もちろんいいよっ!」


そう言って私について来た。



わざわざ場所を変える必要なんか


無かったのかもしれないけど 


私は屋上につれてきた。



「えと……菜塚さん、どうしたの?」


天然っぽく

首をかしげて私を見る


「単刀直入に言うけどいい?」


「うん…」


そう言った黒石さんは


限りなく深い闇のような瞳で


私を見つめた


「…創太の事、どう思ってるんですか?」


一瞬にして


黒石さんの表情が変わった


「どういうこと?」


「そのままの言葉の意味ですけど?」


「……あっ、そう。」


表情に合わせて


口調も変わっていく



「……私、創太君の事が好きなんだもん。」



ああ……



やっぱり。



「好きじゃなかったら、こんな事しないでしょ?」



ニヤリと


笑顔とは呼べない


この世にないような表情をした



「気持ちを入れ替えたのは何で?」



「……それも分かんないの?」



フフっと


少しだけ鼻で笑ったあと



「創太君の隣にいるアンタが嫌だったからに決まってんじゃん!」



黒石さんは


悪魔のように叫ぶ


怖いはずなのに


私の口は


私の思いを全て話していく。



「それ、嫉妬っていうんだよね。」



“は?”


というような顔をしている黒石さん。


……いや


今は、悪魔と呼ぶべきか。



「見苦しいよ?」



私は


悪魔の瞳のずっと奥を


じっと見つめる



「好きだったら、そんな事するの?」



私がそう言った瞬間


悪魔は悔しそうに顔を赤くした


そして


悪魔のようだった表情をゆるませて


「うるせぇ!バカ!」


大声で叫んだあと

走って帰って行った。



なんだか私は



しばらく何も考えられなくなって



空を見つめた。



なぜだか分からないけど



創太の顔を思い出せなかった。