百合子というのが私の名前。だけど最初に会ったとき、拓さんは真面目な顔でこういったの。百合ってことはリリーだね、って。じゃあ俺は、リリーって呼ぼう。そのほうが、現実感が薄れていいだろう?って。

 現実感を排除、それはあの頃の拓さんの、趣味みたいなものだったのだろうと思う。


 窓は白く煙ってしまって、結露で全体が濡れている。

 外の単調な雨音。それを聞きながら、私はゆっくりと服を脱ぎ捨てる。

 まだ成熟したとは言えない白くて細い体を抱きしめて、拓さんは薄目になって呟くのだ。

 ああ、どうして君は、こんな体でここに――――――――

 私はいつも笑いそうになる。どうしてって、拓さんがそう望むからでしょう?それに私の体を作ったのは、あなたなのに。

 だけど二人は、繋がっている時はあまり喋らない。

 ただ一生懸命に溶け込んで、時間をゆったりと分け合っていた。

 そんな毎日を、もう4年も過ごしている。



 拓さんは、家庭教師だった。

 私が高校生だったころ、あまりに危機感もなく下がり続ける成績に何もしない娘にあきれ果てた両親が、知り合いの予備校講師にアドバイスを頼んだら、その弟が家庭教師としてやってきたのだ。

 夏の終わりの暑い夕方で、まだ蝉が鳴いていて、彼は汗を拭いながら言った。

 宜しくね、君はちょっと不満かもしれないけど、これが人生だと思って受け入れて。

 私はそんなことを言われるとは思っていなくて、勝手に親が決めた家庭教師にぶつけてやろうと企んでいた暴言や悪戯を、ついやめてしまった。