孤独な夫婦

「雅美ちゃんて、本当に元気よねぇ。私が妊婦の時はずっと具合悪い事にして、家でゴロゴロしてたよ。」


そう言いながら笑っているのは、同じパートの石川さんだ。40歳くらいの人だが、美意識が高くすごく綺麗な人だ。

「すごいですよね。この間も脚立に乗って窓を掃除しようとしてたので、必死で止めましたよ。転んだらどうするんだか...。」


「店長も毎日ヒヤヒヤしてるんじゃないかな。パンを作りながらも、雅美ちゃんが何かするたびにチラチラ見てるからね。」


「まぁ、何かあってからじゃ遅いですからね。家でゆっくりしてて欲しいのが本音でしょうけど、実際人が足りないのも事実だから助かってる部分もあるでしょうね。」


この店一番人気のクロワッサンを作りながら、私たちは雑談していた。昼間担当のパートは、私と石川さんと30歳くらいの橋川さんだ。みんな結婚していて、石川さんも橋川さんもお子さんがいる。雑談していると、会話に混ざりたそうに離れた所で仕事してる橋川さんがこちらを見ている。

「そういえば、真奈美ちゃんは結婚してどれくらいだったかしら?」


「四年ですよ。今度の結婚記念日が来たら五年になります。」



私は、正直この会話の流れが嫌いだった。何故なら、二言目に出てくる言葉はみんな一緒だからだ。


「そうなんだ。お子さんは作らないの?」


そう、この言葉。相手が悪気がないのは分かってるし、私だって同じような言葉を今まで色んな人に言ってきたのだろう。それは分かってはいるが、どうしても返事に困ってしまうので苦手な会話である。


「そうですね。いずれは欲しいですけどね...。」


この四年で身についた、最高の作り笑いをして仕事に集中する事にした。