自転車で20分くらいのところにあるパン屋さんが私の仕事場だ。元々はOLだったが、結婚を機に辞め、今はパートとして働いている。ずっとデスクワークだったから同じような事務職のパートを探していたが、大学の頃の友人の旦那さんがパン屋を開業する時に、人手が足りないから一緒に働かないかとの誘いにふたつ返事でOKした。時給もそこそこ良いし、何より友人がいるので働きやすいと思ったからだ。

更衣室で着替えて厨房へ向かうと友人の雅美がもうパンを並び終えて、次の仕込みを旦那さんと他のパートさんと四人でしていた。


「おはようございまーす。雅美、おはよう。」


「おはようマナ。ごめんこれ、そっち側持ってくれる?」


そういうと大きな袋に入った小麦粉を運ぼうとしていた。

「ちょっと、そんな重いの持っちゃダメだよ!石川さんと運ぶから雅美は休んでな!」

私は焦って雅美の手を袋から離した。雅美は妊娠していて大きなお腹で働いていた。

「ははっ、大丈夫だよー!楽勝楽勝!」

そう言ってまだ小麦粉を持ち上げようとするのを、雅美の旦那さん、裕太さんが止めた。


「お前、休んでろって言ってんだろ。それに、逆に邪魔だからマナちゃんの言う事聞いとけ!」


そういうと、後ろを向いた旦那さんの背中に、雅美はあっかんべーをしていたずらっ子のように笑っている。


「後は私が厨房に入るから大丈夫だよ!もうお腹も大きいんだから、ゆっくりしてな!」


ごめんね、と言い雅美は二階の自宅に上がって行った。雅美はすごく明るくて優しくて、みんなの人気者だった。大学時代からの友人だが昔から知ってるみたいにすぐ仲良くなった。

旦那さんは違う大学だったけど、旦那さんのパン屋さんがうちの大学のすぐ近くあって毎日買いに行くたびに仲良くなったらしく、卒業して一年もしないうちに結婚した。