「君達が住んでいた区で、何かあったのか?」
私が尋ねると、2人は目を合わせて微妙な表情をした。
「…僕は北区の出身で、クレイグがハンナと同じ西区出身なんです。僕も時々父と一緒に、西区まで店の食材を調達しに行っていたので、その出来事は知っています」
西区…か。
クレイグが住んでいたという西区は、この国の農業のほとんどを行っている。
産業が盛んな豊かな場所だ。
きっとそこで、その…チェンスというハンナの父親が、何かを起こしたのだろう。
「ベシー様、詳しくは場所を変えてお話しましょう。ここは人目が気になりますので…」
「あ、ああ…それもそうだな」
私はいつもと逆にルーサーとクレイグを前に歩かせ、訓練棟の資料室に向かった。
「ベシー様、どうぞお座りください」
「すまないな。ありがとう」
ルーサーが、資料室の中央にある椅子を引いてエスコートしてくれた。
本当に私は何様なんだろうな。
そんな事を考えている間に、クレイグが資料を探し回っていたようで、一冊の分厚い本を持ってきた。
「…これは……」
「ちょうど15年から10年前の新聞記事をまとめたものです」
それは少し古くて、内容もビッシリ詰まっている。
「あっ、ありました!」
すると、それを眺めていたルーサーが1つの記事を指差した。
その記事は、丸々1ページを使いきっていて、とても大きなニュースだったのだと分かった。
見出しには、大きく『大魔導士チェイス・アクランド処刑』と書いてある。