夏休み。

私は、久しぶりに実家へ来ていた。

うだるような暑さの中、遠くにセミの声が聞こえる。
縁側に面したガラス窓を締めた。
窓から入る厳しい日差しは、レースカーテンでどうにか和らぐ。
クーラーのスイッチを入れ、汗が引くのを待った。

こうしていれば、誰もいない部屋は外から隔離された別世界のように、静かだ。

そう思いながら、クーラーの効いてきた畳の部屋で一人、寝そべっていると
小さな鈴の音がチリリと聞こえてくる。

「きなこ?」

目を閉じたまま名前を呼ぶと、

少しあとに、にゃあ、と小さな鳴き声が返ってきた。

「こっち来て、きなこ」

チリチリと、弾むような鈴の音が聞こえてから、

肩のあたりでくるんと丸まる、あたたかな塊り。

ぴたん。

ぴたん。

しっぽがゆっくりと優しく、私のワンピースの肩をたたいた。

「ふふ・・・」

なめらかな毛並みに沿うようにあたたかな背中を優しく撫でると、
久々に感じる癒しに心がほぐれていくのを感じる。

私は、その心地よさから自然とため息を漏らした。

静寂。

耳に届くのは、エアコンからの送風音。

古い壁時計の、カチコチという音。

ゆっくりと瞼を閉じ、眠りの淵に立ったとき、
ふいにピクンと何かに反応したきなこの体が、強張る気配を感じた。

肩から、きなこのぬくもりが離れる。

「きなこ?」

返事の代わりに聞こえてきたのは、そのままタタタッと猫が走り去る音だった。

遠ざかる鈴の音。

きなこがどこに行ったのか確かめることは、諦めた。

瞼も、唇も。

重くてこれ以上、開かないからだ。

このまま寝てしまおう。

そう思っていたら、みし、みし、と古いフローリングが重みでしなる音に続き

中途半端に閉められた障子がスッと動かされる気配がした。

「・・・寝てんのか。エアコンつけてるなら、障子は閉めとけよ」

頭の上で響いた低い声で静寂が破られたことに、落胆する。