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「じゃ、行こっか」
仕事を終えて制服から通勤用の私服に着替えた後、指定どおりに休憩室で他のメンバーを待っていたわたしは、少し遅れて「おまたせ」と軽く手を挙げ現れた暁くんに、小さく首を傾げた。
『行こっか』って、え?
まだわたしと暁くんしかいないんだけど。
私たち以外は現地集合なのかな?
暁くんは彼女思いだから、たとえ仲のいい同期とであっても、女の子とふたりで食事に出かけたりしない。
「他の人たちは?」
すでにわたしの先を歩き出していた暁くんの背中を追いかけながら、そうたずねる。
だけど、暁くんはわたしの言葉が聞こえているのかいないのか、手元のスマホを操作して、「どこなら空いてるかな」と独り言。
たしかに金曜の夜だし、いつも使っているような居酒屋は予約でいっぱいかもしれない。
……って、暁くんの独り言に頷いてどうする、わたし!
「ねぇ、暁くん」
少し前を歩いていた暁くんに並びながら、スマホを見ている顔を覗き込んでみる。
でも暁くんは、わたしの質問には答えずに、「花南さんは何が食べたい?」とのんびりした口調で聞いてきた。


