わたしはせっかく上げた視線を、すぐに逸らした。
「ごめんね、急ぎの仕事がひとつ残ってるから」
……きっと、嘘だって気付かれている。
それは分かっていたけれど、まともな言い訳なんて他には何も思いつかなくて。
早口にそれだけ言うと、わたしを掴む力が緩くなったのを感じ、わたしは彼の手から自分の手首を抜いた。
そしてくるりと方向転換をして、暁くんの返事も聞かずに自分のデスクへと歩きだす。
トン、とコースターの上にマグカップを置いて、椅子に座る。
何でもないようにマウスを引き寄せ、さっきまとめ終えたばかりのファイルを意味も無く開いた。
データの確認をしているかのように、視線は手元の書類と画面の間を行ったり来たり。
……しばらくすると、暁くんがわたしの背後から横の通路を通り、自分のデスクに戻っていった。
「……」
いつものわたしだったら。
打ち合わせでも、休憩でも、なんでもいいから一緒にいられることが嬉しくて、ふたつ返事で了承していたはずだ。
触れられた手を自分から振りほどくなんて、できなかったはずだ。
それなのに。


