落ち着け、わたし!
まだふたりだって決まったわけじゃないし、もしそうだとしても何も起こるわけないんだから……!
お店に入る前に、すー、はー、と大きく深呼吸をして自分を落ちつけようとしたら、暁くんに不思議そうな目で見られた。
『何してんの?』と彼の目がそう言っている。
は、恥ずかしい。
落ち着こうとしてやった行動なのに、見られてしまった羞恥にさらに平常心が遠ざかってしまった。
席に着くと、店員さんからメニューを受け取った暁くんがわたしが見やすいようにそれを広げてくれる。
そこにはなんとも食欲をそそられる料理の名前と写真がずらっと並んでいた。
多国籍料理屋さんなのかな。
定番の料理から、あまり馴染みのない響きのものまで、メニューの幅が広い。
店内は賑やかな雰囲気というよりかは、どちらかというと落ち着いた内装にゆったりとした音楽で、居心地がいい。
まわりを見るとわたしたちと同じような仕事帰りの男女や、少人数のグループが多かった。
「すごい、メニュー豊富だね!美味しそう~!!」
さきほどまでの緊張も忘れてそう声をあげると、正面からフッと小さく笑われた気配。
ハッとして顔をあげると、口元に手を当てて笑いをこらえている暁くんと目が合った。
「……どうして笑ってるの?」


