雲ゐかさ

「電話早かったね」

「うん...暴言だけだから」


個室に二人だけ。
先に口を開いたのは鈴。


「なんか、良太といるといろいろ思い出す」

「いろいろ?」

「こっちの話だけどね。...今更なんだけど」

「? うん」

「入学して二日目さ、何で帰ろうって言ってきたの?」

「あー、あれな。...初日さ、俺が鈴を見たの、校門の前なんだよ。そん時の鈴の目、なんか...昔の俺そっくりだったから、気になってた」

「いい目はしてなかったでしょ?」

「なんか心配した。そんで帰ったら、まさかの部活やらないの攻撃な」

「心配って、お人好し」

「お前だってお人好しじゃん。会って間もないのに部活入れって言うとか」


「でもさ、すぐに入部決めたよね」

「多分、誰かの一押しが欲しかったんだと思う。吉田みたいなんじゃなくてな、なんかこう、勇気付けられる。...俺はバスケ好きで、でももう無理だと思ってシューズとか捨てたんだよ。でもそれ、母さんが残してくれててさ。あ、入部して良かったって思った。未練ありまくりだったからな」


ああ、そうだ。
鈴といると、不思議と自分らしくいられる。
勇気をもらえるんだ。


「逃げなかったんだから、かっこいい判断だよ、マジ。良太のお母さんもかっこいい」

「そ、そーかな?」

「そーだよ」

鈴はたまに優しいけど、どこか遠くを見る目をする。
今もそうだ。