雲ゐかさ

「そんなに悪いの?」

「いやー、なんつーか、持病みたいなもんでさ。たまに、その、倒れるから。検査するために入院的な」

「そっか」


「おう...。...あの、黙ってて、ごめん...」

「もう怒ってないよ。言いたくないことの一つや二つ、あって当然だし」

鈴は、どこか遠い目をしながらも、優しい笑みでそう言ってくれた。

「...ありがとな」

...今更恥ずかしくなってきた。

「それで? どんな感じなん」

「えっと...今は検査の関係もあって、眼帯してっけど...見える」

「良くなってるとかはどうやってわかるの?」

「明確じゃないんだ、本当。先生曰く、良くなってるとは言ってたけど、俺にはわかんねえや」

「...そ」

鈴は何やら考え込んでる。

「...鈴?」

と、突然立ち上がった。

「ど、どどどうした」

なんか、挙動不審だ。
なんだ、どうした!?

「あー...っと、目を瞑っとけ」

「は!!? え、何でそんなに怖い目をしてんの!? な、殴んの!?」

「いいから、本当、瞑れ」

とんでもなくヤバい気がしたけど、これでもかってくらい目を瞑った。

痛みに耐えるため!!

だけど、伝わった感覚は全然違った。

額に、そっと何かが触れた感覚だけが残った。

「...?」

目を開けると、顔が少し赤い鈴が、俺の顔を覗き込んでた。

「...えっと、今のは...? デコに...なんか」

「あぁあーっ!! うるさいな、これで少しは良くなった!?」

「へっ?」

「俊が、こうすると精神的に安定するから、でも男の俺がやったらいろいろ問題があるから、代わりにやってくれって」

...あ。

はい、今のは、額に、鈴の、唇が触れたワケですね??

そうなんですね、っそうなんだな俊!!
てめーこのやろやってくれたなぁああ!!
...やめてくれ鈴、そんな心配そうな顔で、少しは効いた? とか聞かないで本当!


「と...とりあえず俊...ぶっとばすっ...」

「えっ、なんで? あ、俊にやってほしかっ」

「そーゆーことじゃなくてっ!! あー、その、うん、...効いた。げ、元気になった」

「えっ、ホント!? すごいね効くんだこれ!」

鈴は嬉しそうに笑った。

「でもその、今のは...俺だけにしといて」

「? 他にやるわけないやんか」

不思議そうに言う鈴だけど、俺とは意味、違うよね。

「ありがとな、本当嬉しかった」





公衆電話にて。

「おいこらプレイボーイ俊君よ。よくも今日はやってくれたなおい」

[その感じだと成功か! いやぁ、鈴って他人の一大事に敏感だからな! この前のストーカー事件の時も凄かったんだろ?]

「退院したら覚えとけよ...!」

[なぁ良太。額へのキスの意味、知ってるか?]

「え。意味なんてあんの??」

[おう。額へのキスはな、友情を表すんだってさ]

この後の俺に記憶はありません。
覚えていたのは、俊を殴りたいという気持ちだけでした。


...友情かっ...!!
友情だったのかっ...!!