「ユウキさん、ユウキヒナさん~」

いつもにように混雑している、私が大嫌いな空気のなかに聞きなれた女の人の声が響いた。

私は立ち上がっていつもの部屋へと入った。


「こんにちは、どうぞ座ってください」

ここに来てからずっと変わらない、部屋のなかにいる女性の声。 

「こんにちは。」

「調子は?変わりないかしら?」

「はい、大丈夫です。」

「そう、じゃあちょっと歩いてくれるかしら」



大体の会話の流れだって変化はない。
部屋の白い壁も、なにかの予防接種のポスターも、時計の位置も、それはあのときから同じように目に入ってきたものだ。

「うん、いいわね。薬の副作用はどう?平気かしら?」

「はい。」

わたしの返答も、あのときからなにも変わらないのかもしれない。平然を装った、落ちついた声で、決まった返事を繰り返すだけ。

でも、今日は少し違っていた。


「ひなちゃん、実はね私今週いっぱいで移動なのよ、この病院からはいなくなるの。」

先生は肩まである明るい茶色の髪をかきあげながら私にそう言った。


一応、新しい病院、と言い、先生は紙を私へ差し出した。

「ちゃんと引き継ぎの先生には話してあるから。変わらずここへ来てもらっていいからね。もしなにかあれば、いつでも私の所へも相談しにきてね。」

そう優しく微笑んだ。

「いままでお世話になりました、何から何までありがとうございます。」

私は深く頭を下げた。

亜希子先生はニコッと微笑んで、ひなちゃんは最初からここでワタシが見てきた患者さんだからねといった。