私は学校が好きなほうだと思う。友達と過ごせるのは楽しいし、勉強も苦手じゃない。それに、先生たちの間ではおしとやかな優等生で通っている。でも…今日は学校に行くのがとても憂鬱だった。

「おはよう。琴」
「…おはよう…」
「ちょっと、どうしたんですの?明らかに元気ないじゃない。」
「わかります?」
それもそのはず、昨日あんな場面を見てしまえば夜も眠れないというものだ。
「ええ、一目瞭然ですわ。いつもの琴様オーラがないんですもの。」
さっきから話している相手はクラスメートの徳永 悠里花。歴史ある家柄のお嬢様だけど、気さくで誰とでも話せる、人気者タイプだ。そして、私がおしとやかな優等生という仮面をとって話せる数少ない友人。
「琴様オーラって何よ、それ…」
「琴様オーラは、琴様オーラよ。…で?何があったのよ。私に話してみなさいな。」
「んー、じゃあ…。あの、昨日私がお屋敷を抜け出したことは知ってる?」
内海家と徳永家は家どうしでもかなり親しい関係で、私が屋敷を抜け出すと必ずと言っていいほど連絡が入

そのせいか、悠里花は当然、という顔をした。
「あなた、今月に入って何回目よ…。私の家はあなた専用の警察じゃないんですからね。」
「う…ごめんなさい…」
「ま、いいわ。で?続きは?」
「それで、昨日は一般の人…ましてや私達みたいな人が入ることのないような裏道に逃げたのよ。」
「へぇ…それで昨日は見つかるのが遅かったのね。」
納得したわ、といいつつ、悠里花は私の次の言葉を促した。
「その時に、隠れた茂みの下の方に、小さな隙間があってね、そこから下に取り壊し途中の公園が見えて、そこに顔のすごく良く似た二人の男の人とすごく怯えた顔をした男の人がいたの。まさか、あんなところに人がいるなんて、ありえない話なのだけれど…」
「ふーん…たしかそこって、柳澤コーポレーションが買い取ったって言う話よね?そんな時間に人がいるなんてのも変な話ね。で?話し声とか聞こえたの?」
悠里花は本格的に興味を持ち始めたのか、弄っていた端末を置いて、こちらに身を乗り出してきた。
「いや、かなり遠かったから、話し声とかは聞こえなかったんだけどね…。」
それを聞くとつまんないの、と言わんばかりに悠里花は端末を弄り始めた。
「あんた、ほんと視力だけはいいのよね。」
「もう!茶化さないで頂戴。重要なのはこれからなんだから!!」
「茶化してないって。で、その重要ことって何?」
「最初は、工事に関係ある人かなって思って、あまり関心はなかったしそれに逃げてる最中だったからあまりよく見てなかったんだけど…途中で銃声が聞こえたから慌ててそっちを見たわけよ。」
「銃声?…まさか。」
信じられないというように、悠里花は肩をすくめた。
「私もただの空耳だと思ったわ。でも…」
「でも?」
ここまできたら、最後まで聞きたいというように、悠里花は再度こちらに身を乗り出してきた。…端末は持ったままだが…。
「顔のよく似た二人の男の人の内、一人の手には銃が握られていたの。それで、怯えた顔をしていた男の人は…倒れていて、周りは血だらけだったわ。」
「…嘘…でしょ…」
「…わからない。すぐに屋敷に帰って、警察に電話したんだけど…私の家の者と一緒に行ったときは、もう現場には何もなくて…」
「なんだ…じゃあ、琴の見間違いだったんじゃないの?」
悠里花は少しひきつった笑顔でそう言った。
「そう…そうよね。きっとそうよ。考え過ぎね。」
悠里花の言葉を信じるように、私は私に何度も言い聞かせた。
「もー、朝から怖い話しないでよーw」
「ごめんなさい。…あ、もうすぐ授業が始まるわ。」
学校にいる間は、なるべく余計なことを考えないように、勉強したり、先生の手伝いをしたりとなるべく色々なことをやった。