「マスター。流依と依流、ただいま帰還しました。報告がありますので、入室許可をいただきたく存じます。」
流依が重厚な扉の前でそう言うと、すぐに中から返事が帰ってきた。
「入れ。」
その低い声の主は、部屋の真ん中にあるソファーに座っていた。彼はカイン・ラインハルト。この箱庭の主だ。
「依頼、ご苦労だった。それで、報告したいこととは?」
「はっ、まずはこちらをご覧下さい。依流、始末書を。」
流依の後ろに黙って立っていた流依は手に持っていた紙をカインに手渡した。カインはその紙を受け取り、内容を見ると少し顔をしかめた。
「そちらに書いてあるとおり、今回の依頼を一般人に目撃された可能性があります。個人の特定はこれからですが、裏の情報が表に流出してしまう可能性が懸念されます。」
流依がそう報告すると、カインは少し考え込んだ。そして、
「この者の個人を特定し次第、お前ら二人のどちらか、もしくは両方が監視につけ。もちろん、今までどおり暗殺依頼も入ってくるだろうが、そちらも遂行しろ。…できるな?」
「はい。もちろんです、マスター。」
「…俺は…マスターと兄さんの決定に従います…。」
「うむ。では、任せた。それでは、今日はもう休め。」
そういって、カインは奥の扉へと消えた。
二人は、カインが扉の奥へと消えるのを待ち、それぞれの自室へと戻っていった。