チャイムが鳴って、また現国の授業が始まる。

半沢蛍子が教室に入ると、社交辞令そのものの号令で、起立と礼をする。
席に着いたその瞬間にはもう、誠司は蛍子だけを捉らえていた。
倣うようにして、礼は蛍子を見る。

肩甲骨のあたりまで伸びた、単に染めていないだけの黒い髪。
決して不細工ではないけれど、さして美人でもない。
クラスの女子よりも化粧が薄い。
授業が面白い訳でもない。

どの辺りに恋愛感情を抱いているのか、いまいちよく解らなかった。
強いて言うなら、女教師だとか年上だとか、そんな事しか思い浮かばない。
エロマンガの世界だ。

よく解らない誠司は、よく解らない半沢蛍子に、よく解らない理由で、多分、恋をしている。

礼は何故だか、それらを知りたくなった。
多分それは、このクラスの誰も知らない事だからだろう。

ちらりと見えた誠司のノートに書かれた文字は、きっちりとして綺麗だった。

字の成長が小学5年で止まっている礼は、取り敢えずどうやったら字が綺麗になるのかを聞いてみようと決めた。