重ねた積木を崩すような感覚を覚えながら、礼は続けた。

「元々の誠ちゃんの性格もあるんだろうけど、誠ちゃんをそうさせる半沢さんには、興味あるよ」

「それは、どういう方向で?」

「うーん…興味があるとしか、今は何とも」

礼の言葉の端々が、誠司の本能的な部分に引っ掛かる。
しかし、牽制するための言葉も名目も、誠司は持っていない。

「誠ちゃんが何考えてるか、当ててあげようか」

誠司はムッとした。
隠そうともせず表情に出す。
礼は苦笑するでもなく、ただ微笑んだ。

「半沢さんを取られるかもしれない、俺の事、危険だって思ってる」

「…で?」

「でも、告白しないって自分勝手に決めてるのに、俺に半沢さんにちょっかい出すななんて言えない」

「………」

「違う?」

風が吹いた。
中庭の木が揺れて、青葉が擦れ合う音すら遠い。
日光に灼かれたコンクリートが、熱を持っている。

「…お前、本当にいい性格してる」

「んー、ありがと」

にっこりと礼は笑う。
礼は中性的な顔をしている。
少し茶色い髪が拍車をかけていると誠司は思った。
言い過ぎのような気もしなくはないが、礼は所謂、美少年なのだった。

「でもね、きっと俺は誠ちゃんには勝てないよ」

「え」

紙パックを弄りながら、礼は続ける。

「女の子……まぁ、半沢さんは女の人か。女の人ってさ、こっちの気持ちの大きさとか、全部お見通しじゃん。
どんな人なのかなって思ってるだけの俺と、半沢さんだけをずっと見てる誠ちゃんとじゃ全然違うでしょ。
そこらへん、多分すぐに解るんじゃないかな、大人なら特に」

「どっちの気持ちが大きいかどうかまで分かってても、自分を好きでいる方に走ってくとは限らない」

「ま、それも女の子だよねぇ。乙女って難しい」

けらけらと笑って、礼は立ち上がった。
昼休みの終了を告げるチャイムが鳴るのと、ほぼ同時だった。