「誠ちゃん」

「ん」

誠司は箸を止める。
半沢蛍子と同じ、染められた事も無いであろう黒い髪が揺れた。
一度脱色して服装検査に引っ掛かってしまい、黒く染めたせいで傷んでいる礼の髪とは違う。

「誠ちゃんは、半沢さんに告ったりしないの」

意外な事を聞かれたような表情で、誠司は答えた。

「しないね」

「なんで?」

また意外な答えであるように、礼は訊いた。
誠司は半ば呆れたような顔をする。

「なんでって……普通に考えたら解るだろ」

解るだろ、と言われてみれば、解らないでもない。
教師と生徒、開き過ぎた年齢、半沢蛍子の性格、誠司の性格。
そのどれを取ってみても、告白や交際といったものには繋がらないように思えたが、礼は解らないフリをした。

「わっかんないねぇ、何で?好きなら告っちゃやいーじゃん。」

「お前ね…」

「告って、キスとかセックスとかすればいーじゃん?」

「礼!」

礼が喋るのを止めると、ただでさえ静かだった屋上が更にしんとなった。
また、牛乳を一口啜る。

「わざと怒らせただろ」

「あ、分かった?」

堪え切れずに笑う礼に、誠司は溜息をつく。
どの教室でも昼休みが始まったのか、開け放たれた窓や中庭から、生徒達の笑う声が聞こえて来る。
もっともその中に、礼と同じ意味で笑っている生徒はいない。

「わかるよ。お前いい性格してるね」

「んー、褒められちゃった?」

「褒めてない、全然褒めてない。」

礼はそれもきっと分かっている。
本当にいい性格をしていると、誠司はまた溜息をつく。


「んー、でもさ、半沢さんにはちょっと興味わいたよ、俺」

「は?」

驚きなのか敵意なのか、自分でも判断のつかない音が出た事に、誠司は静かに狼狽する。
礼は気にも留めずに続ける。