昨日もそうだったけれど、狭い車内にふたりだけという空間にまだ少し緊張する。

こんなこと同じ年代の女の子に話したら、『同じベッドで一緒に寝たんだし、車内なんてどうってことないでしょ!』とか言われそうだけれど、それとこれとはわけが違うというか、人の目が気になるというか。

落ち着かない面持ちでいると、クスッと笑った大登さんが私の右手を握る。

「で、薫子のアパートってどこ?」

「え? あ、はい。次の交差点を右に入ったところですけど」

握られた右手を大登さんが親指の腹で撫でるから、気になって仕方がない。

なるべくそこに集中しないように外を見ていると、見慣れたアパートの前で車が停まる。

「もしかして、ここ?」

大登さんが車の中から覗き込んで見ているアパートは、まさしく今私が暮らしているアパートで。「はい」と答えると、大登さんは一瞬何かを考えるような顔をしてから私のことを見た。

「薫子、着替えてこいよ。ここで待っててやるから」

「いいんですか?」

「ああ。薫子は女の子だもんな、気がつくの遅くなってごめん」

女の子……。

そんなことを言われたのは何年かぶりで照れてしまう。それと大登さんの優しい心遣いに、胸がほんわか温かくなってきた。

「じゃあ、お言葉に甘えて。急いで戻ってきますね」

鞄を手にすると、慌ただしく車から降りる。

「急がなくていいぞ。ゆっくり支度してこい」

いつの間に開けたのかサイドガラスが下がっていて、大登さんは運転席から身を乗り出すと私を見て微笑んだ。