途端に申し訳ない気持ちが膨らみ、慌てて電話を掛けた。

『薫子ちゃん! あなた今、どこにいるの? おばちゃん心配で心配で』

声を聞くだけで、その心配がどのくらいのものかわかる。

「おばちゃん、連絡しないでごめんなさい。でも心配しないで。会社の……」

会社の何と言えばいいんだろう。

上司? 友達? 仲間?

どれもしっくりこない気がして考え込んでいると、ふっと耳元に何かを感じた。

「彼氏って言えばいいんじゃないの?」

「ひゃっ!!」

驚いて大声を上げると、電話の向こうから『どうしたのっ?』とおばちゃんが心配そうな声を出す。

「ご、ごめんなさい。なんでもないの。昨日ちょっと飲み過ぎちゃって、会社の人のところでお世話になってるから心配しないで。今日はちゃんと帰ります」

会社の人と分かって安心したのか、おばちゃんは『帰ってきたら声かけてね』と言うと電話を切った。

心の中で(おばちゃんゴメン)と謝り、スマホを鞄の中に戻す。

「会社の人には違いないけどな」

「うわっ」

突然頭上から降ってきた声に驚き顔を上げると、不満そうな顔をした八木沢主任がいた。

「さっきと言い今と言い、急に声かけるのやめてください。心臓がいくつあってももちません」

まだドキドキしている胸を押さえると、深呼吸をひとつして気持ちを整える。