目の前には八木沢主任のドアップ顔。
「あ、あ、あ、あの……」
これ以上、言葉が続かない。
生身の男とこんな至近距離で顔を合わせたことのない私は、完全に思考回路停止。頭の中が真っ白になって、身動きひとつできなくなっていた。
怖い。颯助けて……。
目をギュッと瞑り心の中で叫びぶと、彼に助けを乞う。手探りでブロマイドを取ろうとしたら、あろうことか指先に弾かれてどこかに行ってしまった。
いつもなら私がピンチになると必ずと言っていいほど助けてくれるのに、颯ったら今日はどうしたというの?
彼がそばにいると思うだけでどんな困難も乗り越えられるはずなのに、いなくなってしまうと急に心細くなって泣きそうになってしまう。
早く颯を探さなくちゃ。
「さ、触らないで。私の頭から手を離してください」
意を決すると目を開き、力を振り絞って声を出す。
「なんだ、ちゃんと喋れるじゃないか。西垣いいか、自分の気持ちは言葉にしないと相手に伝わらないぞ」
八木沢主任は笑顔を見せると、私の頭をヨシヨシと撫でた。
あ、このシチュエーション……。乙女ゲームの中で颯がよくする、私が一番好きなシーン。いつも主人公を自分に置き換えて、ひとり妄想に浸っていた。



