あまりの急な展開に言葉をなくし、運転席に乗り込んだ八木沢主任を見つめる。

これは一体、どんな展開ですか? 私は『今日は付き合えません』と伝えてさっさと家に帰るつもりだったのに、どうして八木沢主任の車の助手席に座っているんだろう。

しかも八木沢主任は、車に乗ってから私の右手を握りしめている。

「な、何なんですか?」

目線を手元に落とし、恐る恐る聞いてみる。

今日の私は、八木沢主任にアチコチ触られすぎている。

ここは車の中という密室空間。そんなところで颯意外の人に触られるなんて、颯に知られたらと思うと恐怖以外の何ものでもない。

「何って、手も冷たくなってるから暖めてやってるんだけど? 悪かったな、待たせて」

さっきまで微笑んでいた顔が、申し訳なさそうに歪む。

確かに手も冷たい。凍ってしまいそうなくらい冷えていたけれど。

約束の時間より早く来て待っていたのは私の勝手で、なにも八木沢主任が謝ることじゃないのに。

そんなことを考えている間も八木沢主任の手のぬくもりが私に伝わってきて、手だけじゃなくて心まで暖めてくれて。私の中の気持ちが、少しだけ変わり始めていた。