それからしばらくボーっと何も考えずドアを見つめていると、ガチャっと音を立ててドアが開く。そこから顔を出したのは八木沢主任で、バッチリ目が合ってしまった私はデスクの上に投げ出している身体を上げられずにいた。

「西垣。なんだ、体調でも悪いのか?」

言葉だけを聞いていれば、さも私のことを心配している良い上司……なんだろうけれど。顔を見ている私は、そうじゃないことをわかっている。

その口は楽しそうに弧を描いていて、意地が悪そうにというわけではないけれど、どこか意味ありげだ。

この野郎。やっぱり一発、キツいパンチをお見舞いしてやろうか。

なんて、そうは思っても動けないのが勤め人と言うもので。八木沢主任からではないけれど、お給料をもらっている身としては、上司に手は上げられない。

それに颯は返してもらったし、今さら何も言うことはない。ある意味、奪還作戦成功だ。

と言うことは、もう今晩付き合わなくていい? だとしたら、超ありがたい。

途端に気分も軽くなり、身体をさっと起こした。

いつまでも仕事をサボってるわけにはいかない。さあ午後の仕事も頑張りますか!

ノートパソコンを開くと、その電源を入れる。画面に売上と仕入の一覧が出ると、キーボードに手を掛けようとしてその手を止めた。