「柔道か何かしてたの?」

「はい、護身術を少々……」

私は五人兄妹の末っ子で、兄たちが柔道や空手を習っていた関係もあって、「今の時代は、女も自分で自分の身を守れるようにならないと」と指導を受けた。とは言え本格的に習ったわけではないし、実際に使ったことはなかったんだけど。

結構うまくいくもんなんだ。

まあ相手は暴漢じゃなくて柴田さんだから、正確に言えば相手不足だったのかもしれないけれど。

なんて失礼なことを考えるより、柴田さんの具合具合。

「本当にすみませんでした。まだ痛みますか? 病院に行ったほうが……」

「そんな大げさにしなくても。まだちょっと痛むけど平気。いきなり腕を掴んだ俺も悪いしさ」

柴田さんはそう言って笑うと、照れくさそうに頭を掻いた。

「そんな。また痛みが酷くなったら、絶対に病院行ってくださいね」

「了解。西垣さんとこんなに話すのは初めてだけど、大登先輩の気持ち、ちょっと分かったかもなぁ」

「はい? 主任の気持ち、ですか?」

はて? それはどのような気持ち? 私と話して分かったのなら、私が関わっているんだろうけど。

いじめるのが快感とか、からかうのが楽しいとか? それっていわゆる“マゾ“ってやつ?

だとしたら柴田さんも八木沢主任と同類、鬼畜っていうわけだ。

最低と言わんばかりに、柴田さんの顔をじっと睨みつけた。