「さすが、大登先輩」

呆然と八木沢主任の背中を見つめる私に、柴田さんがポツリと呟く。その声に振り返れば柴田さんが、目をパチクリさせて愉快そうに私を見ていた。

「あれのどこが流石なのか、教えてほしいもんだわ」

「お堅いイメージの西垣さんを、誘うことに成功した。やっぱ流石だよ」

柴田さんは感心したように言うけれど、あれは成功したんじゃなくて脅迫したって言うのよ。

「それに私はお堅いんじゃなくて、この世の男性に興味がないだけ。興味がなければ話をする必要もないでしょ」

「でも今日は、よく喋ってる」

「そ、それは……」

痛いところを突かれて、言葉に詰まる。

だって仕方ないじゃない。大切な颯を返してもらうためには、八木沢主任と話すしかなかったんだから。

でも返してもらえなかった。しかも人質として取られ、今の私は絶体絶命のピンチ。柴田さんと話している場合じゃない。

まだほとんど食べていないB定食を口へ一気に放り入れると、冷たい水で喉に流しこむ。それを何度か繰り返しあっという間に食べ終えると、「ごちそうさまでした」と手を合わせて席を立った。