「薫子さん、久しぶり~」

自動販売機にジュースを買いに行く途中、どこからか私の名前を呼ぶ声が耳に届く。元気のいいその声に振り向けば、運搬部の柴田さんが工場棟脇にある搬入口から手を振っていた。

大登さんと付き合うようになってから何度か三人で食事をしているせいか、いつの間にか私の呼び名は“西垣さん”から“薫子さん”に変わっている。彼曰く『大登先輩の彼女なら、俺も薫子って呼ぶのは当たり前』だそう。でも呼び捨ては大登さんにNGを出されて、今の“薫子さん”に修まった。

「柴田さん、こんにちは。今日はこれから仕事ですか?」

そばに近づき、声をかける。

時間は十三時を回っていて、特に深い意味もなく準夜勤かと思いそう聞いただけなのに、柴田さんは何を怒っているのか頬を膨らませた。

「薫子さん、いつになったら俺のこと“幸樹”って呼んでくれるの?」

「またそのことですか? 前にも話しましたけど、私が“幸樹”って呼ぶのはおかしいかと」

「どこがおかしいの? 大登先輩は“大登”って呼んで、どうして俺だけ柴田さんなの。そっちの方が、よっぽどおかしいんだけど」

言っている意味が、全く理解できない。

大登さんと柴田さんが先輩後輩関係なのはわかっているけれど、それと名前の呼び方はなんの関係もないと思うのは私だけだろうか。