薫子さんと主任の恋愛事情


「じゃあなんで、俺に嘘をついた?」

大登さんはそう言うと、ベンチに座り腕を組む。

「嘘をついたと言うか、大登さん……じゃなくて、八木沢主任の近くにいるのはやめた方がいいと思って」

「だから、なんで?」

私の言ったことの何かが気に障ったのか、大登さんの口調からぶっきらぼうになる。

「なんでって……。大登さんと私が付き合ってることがバレたら、やっぱりマズくないですか? これっていわゆる“社内恋愛”ですよね?」

「社内恋愛……。まあ、そうだな」

「だったら……」

これ以上私がなにか言わなくても、大人な大登さんならわかるはず。

そう思ったのに。大登さんは何を考えているのか立ち上がると私の手を掴み、そのまま私を引っ張るように建物の中へと入っていく。

「ひ、大登さん。あ~もうっ! 八木沢主任、手を離して下さい!!」

私が会社に着いてから、もう三十分近く経っているんだろうか。出勤してくる人の姿が見えて、焦った私は大登さんの腕を引いた。でも大登さんは前を向いたまま歩き続け、一向に手を離そうとする気配がない。

もう勝手にして……。

手を離してもらうのを諦めて泣く泣くついていくと、大登さんは経理部のドアを勢い良く開けた。