『紗耶香ちゃん、あいつと話したこと、ある?』


一馬先輩が聞いてくる。


考えるまでもなかった。

『ないです。』


私はきっぱりと答えた。

美樹先輩と一馬先輩は顔を見合わせて、
『やっぱり…』
クスクスと笑いだす。

『?』


私がきょとんとしていると、

『ごめんね。実はさ、蒼太があっち系じゃないか、って噂があってさ』
一馬先輩が笑いながら言う。

『俺はね、違うと思うんだけど、美樹が絶対にそうだって。あいつは、女の子に興味がなさすぎるんだってさ。』

美樹先輩が言う。

『絶対にそうよ。蒼太、自分からは絶対に女の子に話しかけないしさ、いっつも男ばっかで盛り上がってるでしょ。絶対にあっち系だって』


『あっち系…ですか。』

『そう、あっち系』

美樹先輩は意味ありげにうなずいた。


私は大学というところには、いろんな人がいるもんだと思った。


『蒼太先輩、よく笑う人、コーヒーが好き』

私がそれを、

『蒼太先輩、よく笑う人、あっち系』

に書き直していると、ちょうど電車が駅に着いた。

私は二人に、
『お疲れ様です』
と元気よく言うと、電車を降りた。