あれから1ヶ月が経過した。

4月中は履修登録に追われていたが、5月になり落ち着きつつある。2年生になってもまだ履修登録は慣れない。
マキが聞いてきた。
「真二はゴールデンウィーク実家に帰るの?」
「いや、一人暮らしの家でゴロゴロする。」
「ずいぶんと寂しいゴールデンウィークね。」
「マキはどうするんだよ?」
「部活三昧でーす。」
江原マキ。同じ学部の腐れ縁。こうして毎日絡んでくる。1年の時に同じ授業になって以来だ。
「真二は友達少ないし、インドアだもんね。」
「何が言いたい。」
「いや、もっと活発に有意義に大学生活を満喫したら?」
余計なお世話だ。そういってマキはいつも遊びに誘ってくれる。悔しいが異性でもかけがえのない友達の一人だ。
「それじゃあ部活行ってくる。今度のボーリング大会、忘れずにね。」
「おうよ。行ってらっしゃい。」
ちなみに1ヶ月前、老人がくれた水は今ではすっかり枕元のインテリアになっている。信じているのではない。片付けるのを忘れているのだ。
俺はまた読書でもしよう。
一階の学年ロビーに向かう。
部屋に入ると誰もいなかった。
自販機にお金を入れた。

ガシャン

「真二?」
声がして、振り返った。
聞き覚えのある声。
「まなみ。」
ロングの女の子がちょうど部屋に入ってくるところだった。
言葉を失ってしまった。
約半年前、別れた元カノ。
「…元気だった?」
「元気だったよ。…まなみはもう大丈夫なのか?」
「最近、退院したの。」
「そうか。」
そこで言葉に詰まった。しばらく見つめあう形になった。やがてまなみが口を開いた。
「久しぶりに世間話でもしようか。」

いつものミネラルウォーターに口をつける。まなみとは向かい合う形で椅子に座った。
「いつから退院したの。」
「新学期始まってから。休学したから1学年下になっちゃった。」
「治ったの?ずっと心配してた。」
「ありがとう。」
まなみが辛そうに笑った。
逆に近況を聞かれたのでいまだにサークルに入ってないこと、2年生のゼミは今田先生にしたこと等を話した。
「今も本とか読んでるの?」
「この通り。」
手に持っていた本を持ち上げた。
「昔のようにおすすめを教えて。」
付き合ってた頃、よく本のおすすめを教えていた。
「いいよ。おすすめはこの本かな。『マーメイド』っていう本。」
「どういう話?」
「片恋のマーメイドの話。マーメイドがずっと好きな人を待ち続けてるの。そこにミステリーとか絡んで意外な結末で面白い。」
「ラブストーリーなんだね。珍しい。」
「ミステリー入ってるから。それに、何だか読んでみたくて。」
まなみに本を渡した。まなみが丁寧にページをめくったり、表紙をみたりする。一通り見て俺に返した。
「好きな人をずっと待つなんて切ない。」
まなみが寂しそうに呟いた。沈黙の後、まなみが決心したように言った。
「ねえ、真二。」
まなみが俺を見つめる。
「お願いがあるんだけどー。」