普通に勉強して。
普通に遊んで。
普通に高校生な私…藤崎瑠璃(ふじさきるり)。



ばいばーい。友達と靴箱で別れ正門に向かうと




ーーうわ、、また居る…。




正門の壁に寄りかかる姿はまるでモデル。

スッと通った鼻筋に薄い唇。
無造作に寝ぐせ立つチョコレート色の髪の毛。
長めの前髪から覗くのは、大きな瞳。

中性的な美しすぎるその外見とそのスタイル。



見つからないように下校中の他の生徒達に紛れコソコソ歩くものの、そんなものは通用せず直ぐに見つかった。

大きな瞳に私を捉え、がしっと腕を掴んでくる。




「久しぶり!の、ハグをしようかルリちゃん。ああ、、嫌がる顔も可愛いーわ。うん、そんなブサイクな顔してもムダ。俺には天使に見えるから。」





ペラペラ喋るこの美しい男は淡路亜紀(あわじあき)。
名前まで中性的すぎて、よく女に間違われるという。


謎、謎、謎。
全て謎なこの男。




「何でここに居るんですか…」

「だってぇ~、、ルリちゃんが好きなんだもーん。」




くふ。笑う顔は確かに優しいのに
ぎらり。私を瞳に捉える姿は…欲望のままに動く野獣。





好き。このセリフも何回聞いた事か。
無視しまくってたらだんだん高校で待ち伏せするようになり。
送ってくよー。って言うけども、これストーカーじゃないの。



仮にも立派な大学生がこんな事してていいのか。
いやそもそも高校生と大学生って立派な犯罪じゃないの。



思ってても言わないのは、、全て無意味だから。
自由、適当、マイペース。
そんな言葉が似合うアキさんには
何を言っても無駄。言うだけ無駄。



前に一度だけ素直に言った事がある。


「これ、犯罪じゃないの?」
「ルリちゃん、好きだよ」
「犯罪よね?」
「かーわいー」
「だいたいアキさん、大学生でしょ?」
「もぉ、ちゅーしてぇ。」


何を言っても
好き、可愛い、の一点張り。

こっちの話、聞いてる?
ああ、そうだよね。聞いてないよね。





その時に私は、アキさんには何を言っても無駄って事が分かって。
それ以来、特に質問する事はなくなった(心の中では思ってるけど)。




待ち伏せされて。送ってもらって。
待ち伏せされて。送ってもらって。

ずっとこの繰り返し。






□ □ □







あれは幼馴染の唯斗(ゆいと)と一緒に帰ってた時のこと。
ちょうどポツリ。雨が降り始めて。
ちょっと早めに歩く?って、言おうとした時。



「好き、だったんだよね…ずっと。」



ユイトが、言った。
私に、言った。



「…幼馴染じゃなくて、俺を…男として見てほしい。」



ハッキリ。私の目を見て言った。
私に、言った。




ユイトは幼馴染で。
本当に良い幼馴染で。
一番の男友達で。



「…ごめん。ないわ。」




ばっさり即答した私に
ぽかーんとした顔のユイト。




うん。ムリ。
ユイトは幼馴染。これは変わんない。




ぽつり、ぽつり。雨が酷くなってきて。
ねぇ、早く帰ろ?ユイトに言う。




「なっ、、お前…他にも何かあんだろーが」
「いや、だってムリだし。」
「ちょ、俺の気持ちも考え…」






「ぶふっ…」






…笑い声?
ユイトが笑ったのかな。
チラッとユイトを見ると、訳わからんって顔。






「ぶふふっ、、っ、ふ…くふふふっ」






目の前に現れたこの男。
なに笑ってんの。言いかけて留まる。

あら?もしかしてすっごく美しい?
あらら?もしかして女の人?


隣のユイトを見ると、目がハートになってるし。
メアド教えて下さい!とか言ってるし。


ちょっと、ちょっと。
さっきの好きってやつは何処いった?
ん?そんな軽いもんだったのか?ん?ん?




そんな私の表情に、
ますます笑いだすその人。





ぽわーん。目をハートにしたユイトを押しのけ
ぺたぺた。私に近づいて来る。




うわ。綺麗な人。
近くで見るともっと綺麗だなぁ。




じーっとガン見していると

「俺の顔見過ぎ」

くふっとまた笑ったその人。





あ、男なんだ。
残念だったねユイト。
え、何その男でもいいです的な顔。
やめなよ?え、やめときなよ?






そんな私を見てますます笑うその男。
不意に腕を掴まれる。







ちょ、なんですか。
言いかけて止まった。


いや、止めれた。
というか、、口を塞がれた。


これ、キスだよね…?








ちゅっ。唇が離れると
耳元で囁かれた。











「…ねぇ、俺のもんになりなよ」












甘く、優しく囁いたその言葉。
ゾクリと鳥肌が立つ。



ダメだ。
この人ダメだ。



一度はまったら抜け出せない。
ずっと、ずっと、、抜け出せない。
















「ルリちゃん、好きだよ。」







今日も甘く、優しく囁くアキさんは
あの日と何も変わらなくて。




ふんわり笑う笑顔の奥に
ギンギンの野獣は眠っているから。




せめて抜け出せなくなる前に。
貴方が欲しくて欲しくてたまらなくなる前に。





ーーーーなんて、







もうすでに




手遅れなのにね。