ふいに、懐かしい匂いがした。



匂いと言っても、ただの匂いではない。



魔法使いが感じる『匂い』とは、魔力のこと。



懐かしい魔力を感じたのだ。



その時はてっきり、数ヶ月ぶりに会ったオーリングのものと思った。



そう思い込もうとしたのかもしれない。



しかし、オーリングのいる戦場に立って、分かってしまった。



信じられなかったが、信じるしかなかった。



目の前の現実を。



「......ル...ミ......?」



無意識のうちに口がその名を呼んだ。



オーリングの腕の中で、力なく横たわるその少女の名を。



「え、......ジンノさん、ルミちゃんのこと知ってるんですか?」



その声に気が付いたのか、オーリングが驚いたように言う。



だが、あまりの衝撃に頭がついていかないのか、オーリングの言葉に反応することは出来なかった。



敵のことを一切忘れ、彼女に近づく。



白髪のように見えたその髪は、近くで見るとわずかに色素の入ったプラチナブラウン。



幼いその表情。



自分の知っているルミではない。



そう思いたいのに、目が離せない。



見れば見るほどに、似ていると感じてしまう。



そんな訳ないのだ。有り得ない。



頭では分かっていても、心が否定する。



「ジンノさん?」



いつもとは全く違う様子のジンノに困惑するオーリング。



黒い革手袋を外して男にしては細く美しい手を伸ばし、浅く呼吸をする彼女の白い頬に触れる。



違う。違う筈なのに



「ルミ......」



サングラスの奥の、見えない瞳から透明な雫が頬を伝った。






彼女と、死んだ『妹』を重ねて。






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