『影の部屋というのは、この国の王家に大昔から存在する魔法で作られた部屋だ。その構造は複雑で、現代の魔法科学では解明できないらしい』
木陰に座り込み、ノアは静かに話し始めた。
『影の部屋はその名の通り《影》そのものだ。心に闇を抱えたものは入ることができない。どうしてだか分かるか?』
突然の質問にルミは答えることができない。「分からない」そう答えたものの、影の部屋に入る前、エンマが言っていた言葉を思い出した。
“光”と共に存在し、“闇”を許さぬ部屋
これが何か関係しているのだろうか。
『さっきも言ったが、影の部屋は《影》そのもの。影は光があってやっとその姿を映し出す。光と影は言わば表裏一体。なくてはならないものだ。
だが、闇はそうはいかない。闇は影そのものを飲み込んでしまう。影を喰らい我がものにしてしまう。
だから、《影》は光を好み闇を嫌う。
影の部屋では番人であるエンマが、人の心に住む闇を判断し、少しでも闇を感じれば奴は絶対に影の部屋へと続く道に立ち入らせない。空間をねじ曲げ、元々あった影の部屋への道を分からなくしてしまう。
エンマの手の中では影はいとも容易く形を変える。今では影の部屋へと続く道は迷路のように入り組んで、影の部屋の住人しかたどり着く事はできないらしい』
長い長い説明が一旦終わり、ノアはふうと息を吐いた。座り込み黙って話を聞くルミを、伏し目がちに見てノアは尋ねる。
『もう影の部屋には行ったと言っていたな』
「うん。ちょうど三ヶ月くらい前。エンマが迎えに来たの」
『ならルミは、影の部屋の番人に認められたという事になる。あのばかも仕事だけは抜かりなくやっているからな』
ふと疑問に思う事があった。
「ねえ、ノアはエンマと知り合いなの?」
やけに親しげに名を呼ぶなあ、と。
そう言えば影の部屋へ行く途中、だんだん傷が痛み出して座り込んだとき、痛む背中に手を当てて
『...ルミ様、申し訳ございません
エンマめにはノア程の治癒力はございませぬ故......』
エンマは確かにそう言った。記憶が間違っていなければ、あの時既にエンマはノアと呼んでいたではないか。
「......あいつとは、まあ、古い付き合いだ。腐れ縁と言ったところか。今は以前と違う姿をしているようだがな。」
むすっとした表情のノア。今、エンマのことを考えているのだろうか。少しだけ機嫌が悪くなったような気がする。
そんなノアの様子も気になるが、エンマの姿が以前と違うという点が少しばかり気になった。小さな黒人形の姿。顔はなく、のっぺらぼう。ただでさえ、摩訶不思議な体をしているのに、姿形を変えることもできるとは。
(エンマ凄い......)
ノアの前で口に出さない方が身のためかなと、心の中で小さく賞賛したのだった。



