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視線を感じて振り返る。
だが、そこには何もなく、誰かがいる気配も無かった。
(気のせいか......)
時々感じる誰かからの視線。この場所に来ると感じるのだ。決して嫌な視線ではない。不快にもならない。遠くから見守るようなそんな感じ。
『どうかしたのか?』
ノアが心配そうにルミの顔をのぞき込む。「ううん、平気」と笑顔で答えるルミ。やはり不思議に思ったのか、ノアはルミが先程振り返って見つめた先に視線を向けた。
王宮の外壁のある一点を睨むように見続ける。まるでそこに何かがあるかのように。
『ふん、あいつか......』
小さく唸るようにつぶやいたその言葉は正確にルミに届くことはなく、「ん、何か言った?」と尋ねてくる。
『いや、何でもない』
そう答えたノアは、しばらく考えるように黙りこくった後、とんでもないことを口にした。
『......なぁ、ルミ』
「なぁに、ノア」
『......“影の部屋”を、知っているか?』
「!!ええっ!
ノ、ノアっ、影の部屋を知っているの!?」
今までオーリングをはじめ誰に聞いても知らぬ存ぜぬだったこと。それをノアが知っていた事実が、『影の部屋』と言う言葉がノアの口から出てきたという事実が信じられない。
『その様子を見る限り、知っているんだな
もう行ったのか?あの場所に』
「......うん、行った」
『そうか...』
やっぱり夢じゃあなかったんだ。その思いがルミの心の中にじんわりと広がっていく。
待って、じゃあ
「シェイラさんはっ?エンマは??
ノア、あなたは何を知っているの!?」
考える前に言葉が先に出ていた。
しかし直ぐにノアは驚き焦ったように顔を近づけた。
『!!ルミ、その名前を口に出すなっ!』
「えっ」
思わず両手で自分の口を封じる。
『いいか、エンマはともかく、この国であの方の名を口に出してはいけない。......少なくとも今は絶対に』
小声でそう訴えるノア。ルミはコクコクと急いで頷いた。



