櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ





『そろそろ時間ですね』



エンマのその声が合図になったかのように、部屋に一つしかない掛け時計が三時の鐘を鳴らす。控えめな柔らかい音。けしてこの部屋から漏れることのない音。



どうしてこのような中途半端な時刻に時を知らせるのか。



その答えは、掛け時計と同様、この部屋にたった一つしかない窓から覗く景色にあった。



そこには





「ノア!」

『ルミ、もう他の仕事は終わったのか?』

「うん、今日はね、馬小屋の掃除もしたの。疲れたけど楽しかった」

『そんなことまでやってるのか、どれだけ人手不足なんだこの国は』

「楽しかったからいいの!色んな経験ができるって幸せなコトじゃない?」

『よくそんな風に考えられるな、根っからのお人好しなんだろうな、ルミは』

「お人好し上等!フフっ」





美しいユニコーンと、可愛らしい笑顔でそれに寄り添う少女。



何と心温まる光景だろう。



午後三時。



この時間になると、彼女たちはこの場所へやってくる。



影の部屋にある唯一の窓から臨むことの出来る小さな庭。小さいながらもバラ園があり、それはそれは美しかった。



以前まではシェイラがこっそりと手入れをしていたのだが、ある日を境に手入れをしなくなり、煩雑としていたこの庭を、今では彼女が手入れをしてくれている。



おかげで、元のいやそれ以上の美しさを持つ庭となった。



二人の和やかなその様子を窓越しに見ては、笑みを浮かべる。



直接会うことはできない。



もしかしたら彼女はもう自分の事を覚えていないかもしれない。



それでも良かった。一日にたった数時間、彼女を遠くから見つめることが出来る。それだけで心が暖かくなる。