「...ねぇ、ノア」

『ん?』



 ルミはノアと戯れながら尋ねる。



「ノアは知ってる?影の...
ううん、何でもないや、気にしないで」

『??』



 影の部屋、エンマ、そして...シェイラ。
 未だに忘れることのできない三つの言葉。
 オーリングの言う通りやっぱり夢だったのかなとも思うし、それでも自分の記憶を疑えないところもある。



 何より、シェイラと言う名の少年の顔が、頭に張り付いて離れないのだ。



 もう少しで死にそうな、やつれたあの顔。全てをなくし絶望したようなくすんだ黄金色のあの瞳。そこから溢れる淀みを知らない美しい涙。



 三ヶ月たった今でも鮮明に蘇る。



 今、彼はどうしているのだろうか。もしかしてもうこの世にはいないかもしれない。どうにかして生きて欲しくて、無責任な言葉をかけてしまったけれど、ルミの真意が伝わったとも思えない。



(...ていうか、『私のために生きて』は無かったなぁ。どんだけ上からの台詞よ...ホント、もう、あーないわあ...)



 あの日から、自分の発言を思い出しては何度も後悔しまくっている。夢であれ、現実であれ、あの言葉は酷かったと。



 それでも全ては過ぎたこと。



 そう割り切りたいのに、らしくもなく何度も、シェイラの顔がチラついてはあの出来事を思い出し後悔しているのだ。



 はあ、とノアにも聞こえないくらい小さな声で溜息をつく。



 しかしノアが気付かないはずもなく。怪訝そうに首を傾げルミを見る。気を使ってか、それを言葉として出すことはない。



 暖かな日差しの中でルミとノアはゆったりと佇む。



高級な絹のように滑らかな手触りのノアの毛並みを堪能していた。



その時



(!!)



視線を感じた。



『?どうかしたのか、ルミ』



誰かに見られているようなそんな感じがした。



急いで振り返り、ルミは、ある一点を見つめていた。