時は経ち、あれから三ヶ月。



 今、ルミはオーリングの計らいで、王宮内の雑用をしている。



 主に、王宮内の掃除、兵舎や訓練場の掃除、食堂での様々な手伝い、庭の手入れなど本当に人手の足りない雑用ばかり。色々な所に必要とされ、引っ張りだこだ。



 おかげで、沢山の人と知り合うことができた。少しずつだが、この国について知ることもできてきた。



 魔法について、少し勘違いがあると知ったのも王宮の雑務中に知り合った兵士からだ。魔法は何もこの世界の人全員が使えるというわけではないらしい。むしろ使えない人が圧倒的に多く、魔法を使える人は無条件に王宮で仕事につくことが出来るという。



 また、使用人達からはこの国の権力の分布構成を聞く機会があった。



 その昔、このフェルダン王国には王家フェルダン一族とその分家に当たる四つの一族が権力を握っていたらしい。しかし、数十年前にあった『ある事件』のせいでフェルダン一族を除く四つの分家内での権力分布図が大きく変わっていったそうなのだ。
 


 今現在力、最も力を持っている一族の名は『フィンステルニス』。なんでも、その『ある事件』を裏で操っていた一族だと言う噂もあるらしい。



 この一族には気を付けろと、誰もが口を揃えて言う。
 だが、気をつけろと言われてもどうすればいいかも分からなければ、顔を知らないんだから気を付けようもない。



 それともう一つ新しく知った事。



 それは、オーリングという人物が只者ではないということ。



 薄々感づいていたが、本当にすごい人らしい。兵舎で仲良くなった兵士達からも物凄く慕われているし、使用人達の中にも彼を悪く言う人なんていない。おまけに、異世界からやって来た身元もはっきりしないような人間の世話もこれでもかと言うほどやってくれる。



 つまりそれだけ融通が利く人だという事だ。それなりの立場にある人だということでもある。



 この世界にやって来て、初めて会った人がオーリングで良かったとつくづく思うルミなのだった。



 そういった、今まで知らなかった様々なことを教わることが出来るので、ルミは王宮での雑務であっても、この仕事がかなり気に入っていた。



 そんな毎日の中で一番好きな時間が庭仕事の時間だった。



 なにも王宮の庭全ての手入れをするわけではない。その中のある一角だけ。ちょうどルミの病室からもちらりと見ることができたバラ園のある庭だ。



 植物自体はやけに生命力が溢れてイキイキしているのに、全く手入れがされてなくて煩雑としたバランスの悪い庭だった。



 そのままにしておくのはあまりに勿体なかったので、ルミは庭師のマルクに進言してみたのだ。この庭の手入れをしてもいいかと。



 マルクは快く了承してくれた。



 聞く所によると、この庭をいつも整備していた人が訳あって出来なくなってしまったらしく、どうしようもないから放っていたのだそうだ。



 それが誰かは知らないまま、ルミは昼過ぎの陽射しが穏やかになる三時頃、一人黙々と丁寧に丁寧に手入れをし続けた。



 ノアと再開したのはそれから一月と経たない頃。



 静かにルミの前へと現れるしなやかな白亜の体。



「ノア!!」

「ルミ...」



 久し振りのその姿にルミも喜びノアに抱きついた。ノアも体を寄せて鼻先をルミの頬に擦り付けては、全身で喜びを顕にした。



 その日から、ノアはいつもその時間になると庭に現れルミに寄り添い時間を過ごす。



 そして、今日も。



 心地よい陽射しの中で一人と一匹はのびのびと過ごす。



 この三ヶ月で、ルミが手を加えた庭はより美しく綺麗なものに変わった。雑草は抜かれ、伸びすぎた枝葉は切り揃えられ、見栄えのする庭へと。



 元々、ここの草木は生き生きとしており、けして傷んだりはしていなかった為、少しばかり手を加えただけでそれは美しいものへと姿を変えていった。



 今では本当に、毎回ほんの少しの手入れをするだけ。



 その後に仕事はないので、残った時間はノアとのんびり木陰で休んだりおしゃべりをして過ごしていた。