生きて欲しい。



 ただそれだけを思って、口に出した言葉。



 あまりに自分勝手な台詞だけれど、私が彼の生きる目的になれればいいとそう思った。



 その言葉を聞いた時



 横たわる彼の口元に、僅かだが笑みが見えたような気がした。



 そして彼は瞼を閉じる。



 まさか死を選んだのかと、一瞬焦りを覚えたが、程なくして規則的な息遣いが聞こえ、彼が眠ったのだと知る。



 どことなく穏やかそうに見える彼の寝顔。



 それを見てルミはやっと息をついた。



 エンマも一安心したのか、ベッドのそばを離れ、何やら入口とは別の扉の方へと向かっていった。



 暫くして戻ってきたエンマの手には、水の入った器と数枚のタオルがある。小さな体にはあまりに重そうで、ルミは駆け寄り、水の入った器を受け取った。



「持つよ、エンマ」

『あっ、ありがとうございます
ルミ様』



 そしてエンマは甲斐甲斐しくシェイラの世話をし始めた。



 やせ細って、力の入らないその体を拭いてやったり、服を着替えさせたり、栄養剤を補給したり。本当に色んなことを一人でこなす。それを手伝おうとすると『ルミ様は休んでください』とフカフカの椅子に座らされた。



 エンマの様子を見ていて気づいたのは、小さな体に不釣り合いなくらい、力があること。体こそ小さくひょろひょろとしているものの、全ての力作業を一人でこなす。



(変なの......)



 心の中でそう呟く。



 この世界はやはりおかしい。魔法というものが存在し、ユニコーンが実在し、訳のわからない黒い動く人形がいる。



 元いた世界では考えられないくらい、いろんな人と出会い、たくさんの言葉を交わした。



 運命の歯車があるとすれば、確実に回り続けているに違いない。



 そして、シェイラと言う名の少年との出会いもまた、その歯車を大きく動かすものかもしれない。



 窓から入る風が優しく頬を撫ぜる。



 フカフカの椅子に体を預けると、だいぶ歩き回ったからだろうか、突然睡魔が襲ってくる。



 徐々に瞼は降りてきて、ルミは深い眠りについていった。