風が吹く。





 ああ、何でだろうか。





 私はこれを知っている。





 暖かなこの風を。





 桜の花びらと遊ぶ、この風を。





『.........ねえ、約束だよ』





 気付くと、ルミが見つめる先には、少年が立ってこちらを見つめていた。だが、ここからはその少年の表情も姿さえもはっきりとしない。



 誰?誰なの?



 必死に声を出そうとしているのに、それが音になることはなかった。





『......また明日、ここで待ってるから』





 まるで自分に言われているようで



 その少年の傍に行きたくて、足を前に出す



 歩いている筈なのに、二人の距離は縮まらない



 それどころか、少年の姿が徐々に小さくなっていく



 待って!と言いたいのに、声が出ない



 そして、とうとう彼の姿は消えてしまった



 残されたルミの回りには、どうしてだか、桜の花びらが舞っていた。きっと、もう会えないだろう少年の姿を思い出し、ルミの胸はぎゅううぅっと苦しくなる。



 目頭が熱くなり、どう使用もなく切なくなる。この感情は何なのか。何も分からず、ルミはその場にうずくまった。