ベッドの上に横たわる、翡翠色の目の少女。



 顔色は青白く、体調は贔屓目に見ても良さそうには見えない。



 色素の薄い彼女の髪が、余計に病的に見せているのかもしれない。



 シルベスターは、ベットの傍ヘと寄ると、近くに置いてある椅子に腰掛けた。



「君が、ルミさん、だね」



 確かめるようにゆっくりとそれを言うシルベスターに、ルミは口を開くことなく頷いた。



 印象的な美しいその瞳はしっかりとこちらを見つめたまま。



 やはり体が辛いのかもしれない。



 近くで見ると、より一層彼女の顔の青白さが目に付く。



(.........オーリングの言った通りだったな......王族というだけで、無理をさせていたかもしれない)



 考えてみれば、王族が面会したいと聞けば、たいていの人間は自分の体調が多少悪くとも、それを押して会うというだろう。



 オーリングは、昔から私のことが嫌いだった。それを口にして言うことは無かったが、明らかな嫌悪を抱いていたのは知っている。



『あんたの、周りの人間のこと考えてない、自分の事しか考えてないそういうとこ、本ッ当に大嫌いだっ!!!』



 それも、とうとう口に出して言われてしまったが。



(オーリングにまで......見限られたか......)



 シルベスターはゆっくりとその手を伸ばし、ルミの細く白い手に重ねる。



 自分とは違う、か弱く脆そうな目の前の少女。



 それは同時に、オーリングの母親を思い起こさせた。



 彼の母親も、彼女のように白く細い体をしていた。



 病弱で街に出て遊びにも行けないような弱い人だった。そんな彼女はオーリングが幼い頃に亡くなった。



 病死ではない。



 暖かな春の日、珍しく体調が良かった母親はオーリングを連れて花畑へと散歩に行ったのだ。



 そこで、つい先日のシルベスター同様、その命を狙われ討たれた。



 幼いオーリングは何もできなかった。



 母親が命の尽きる前に放った加護魔法により、一人生き残ってしまった。



 同じ頃に、父親も闇討ちにあい、そしてオーリングはひとりになった。



 ......そう聞いている。



 きっと、重なったのだろう。



 自分を守って亡くなった母親と、目の前にいるルミと言う名の少女が。



「ルミさん」



 突然名を呼ばれ、「?」と首を傾げるルミ。そんな彼女を優しく見つめ、彼は言った。



「助けてくれて、生きててくれて...本当にありがとう」



 そして、深く深く、頭を下げる。



 一国の王が、だ。



突然のことに戸惑い、驚いて
「やっやめてくださいっ!!」と少し大きな声を出す。別の意味で顔を青くするルミ。



 それでもシルベスターは暫く動こうとはしなかった。



 たっぷり1分、そのくらいは経ったかなと思う頃にシルベスターは漸く、その頭を上げた。



「本当に本当に、感謝している。君がいなければ私は、私と妻は、間違いなくあの場で死んでいたことだろう。
そうなれば、この国は終わりだった。
本当にありがとう」



「いいえっ、そんな、私はただ無我夢中で......よく覚えてないんです......」



 どうして申し訳なさそうにそんなことをいうのだろう。心の中でそう思いながら、シルベスターは、彼女から柔らかい風が流れてくるのを感じた。



 優しく頬を撫ぜるように流れる、それはまるで....そう、暖かな......



『....春の風の、匂いがする...お前は本当に桜のような子だね』



 ああ、そうか



 .........オーリングが、惹かれるわけだ



 小さく小さく、呟くように放たれたその言葉は、ルミに届くことはない。



 その風はシルベスターがよく知る人のそれと、よく似ていた。



「......兎に角、無事でよかったよ。
それに、どうやら君はオーリングの大切な人みたいだからね。この先も大切にしていかないと」



「?」



 イマイチ話について行ってないような表情を浮かべる彼女。



 その様子に、彼もこの数ヶ月誰も目にしたことのないような、ホッと安心した柔らかな顔をしていたのだった。



「...ふふっ、可愛いね君は」



 不意に発したその言葉に、彼女は驚いたように目を大きくする。



「私の名は、シルベスター・フェルダン。この、フェルダン王国の王だ
そう堅苦しくしないで。君は今や、この国の王を救った英雄なんだから。それに、オーリングの大事な客人でもあるようだしね」



 手厚く歓迎するよ!と、人懐っこい笑顔でにこやかにそう言う彼は、彼女の手を優しく、だがしっかりと握り、続けるのだ。






「我が王国へ、ようこそ ルミ

小さな白い私のknight【ナイト】」