「............、ルミちゃんっ!?」
...あ。
気付けば、頬を温かな雫が伝っていた。
目の前には、じっと真剣な面持ちで見つめ続けるユニコーン──『ノア』と、心配そうに覗き込むオーリィさんがいた。
───今、私は、何を考えていたのだろうか。うまく思い出せない。
ほんの一瞬、私は全くの別人になっていたような気がする。
......可笑しな話だ、自分の思考が馬鹿らしい。
「ルミちゃん、大丈夫か?
どうしたんだ、急に泣いたりして...
......何かあったのか?」
横目でちらりとノアを見ながらそう問いかけるオーリィさん。
ノアはけして私から目を逸らそうとはしない。
まるで私を現実から逃げ出そうとしないように監視しているみたいだ。
(......考え過ぎか、ここに来て、あまりに現実離れした事に触れ過ぎたんだろう......)
ふぅ、と一息ついたあと、私はノアの無実と解放をお願いしようと口を開いた。
「.........いいえ、何もありません...
大丈夫です。
心配かけてごめんなさい」
「...いや、大丈夫ならいいんだが...
本当に何もないのか?」
「はい、何も。
それより、ノア...いえ、このユニコーンを放してあげてください。
彼は何もしないし、人に危害を加えたりしません。人を襲ったのも自分ではないと言っています。
絶対に大丈夫。保証します、私が。この命をかけても良い」
オーリィさんの瞳から目をそらさずにそこまで言い切ると、オーリィさんは驚いたように目を大きく開いた。
「き、君は、ルミちゃんは、ユニコーンが『言った』と.........」
「はい、彼はちゃんと説明してくれました。その時何が起こったのかも、全て。
あ、名前は『ノア』と言うそうです」
どうしてオーリィさんが一度言ったことを聞いてくるのか不思議に思ったが、質問にちゃんと答え、ついでにユニコーンの名前まで付け加えた。
するとなぜだか不満そうな表情で青い瞳を細め、ノアがこちらを見る。
「どうかしたの?ノア」
『.........勘違イシテイルヨウダカラ言ウガ、私ハ女ダ』
あらビックリ。
口調からてっきり男だと思っていたのに。
「え、女の子だったの?
ごめんなさい。口調から男の子だと思ってた。」
『ソンナコトダロウト思ッタ.........』
呆れ顔のノアとそんな会話をした後、「女の子だそうです」とそう伝えると、オーリィさんは唖然といった顔で私を見つめていた。
よく見ると彼以外のお頭さんを始めとした男の人達も同じような表情をしている。
私はよくその意味を理解していなかった。ユニコーンと呼ばれる生き物は誰とでも会話ができるものだと考えていたからだ。
しかし、ノアによってそれは訂正される。
『驚クノモ、無理ナイ
普通、我々ハ人ト言葉ヲ交ワスコトナドナイカラナ』
「そうなの?」
『アア、私ガ特別ナノダ』
「じゃあ、オーリィさんと話してあげなよ、私が伝えるより確実だから。」
二度手間かけさせないでよ、とそうノアに言うと、『昔カラ、男ハ信用シテイナイ』と冷めた目でいい始めるもんだから、私は少しだけ可笑しくて、クスリと笑ってしまった。
その裏で、オーリィさんを始めとした男の人達が、顔を赤く染めていることにルミが気付くことはなかったのだった。