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「.........はっ、はっ、はっ...
だ、大丈夫?ルミちゃん.........」

「.........平気です
足は引っ張りません.........はぁっ」



 二人は走り始めてから、速度を緩めることなく走り続けていた。



 オーリング自体は、まさか王都まで走ることになるとは思っていなかったのだが、流石に体力はある。



 恐らくこの距離ならば大丈夫であるが、驚いたのはルミの体力だ。



 あんなに細っこい体をしているのに平然とオーリングの走るスピードに着いてきている。



「ルミちゃんって、意外と、体力.........
あるんだ、ねっ......はっ.........」



 若干、自分の方がきつくなっているのは気のせいだろう。



「...そんなことないです.........
はぁ、はぁ.........」



 まあ、彼女も人並みに体力を奪われているようなのでいいとしよう。



 だが、この調子で行くと恐らく明日には王都に着くことが出来るかもしれない。



 オーリングがそう思案していた時。



「大人しくしろ!!
っ! このッ、暴れるな!!!
今ここで殺されたいか!」



 どこからか、なんとも物騒な叫び声が聞こえた。



 ルミにもその声は聞こえていたようで、次第に走っていたその足は止まり、二人はゆっくりと顔を見合わせていた。



「い、今の......」



「...うん、ちょっと物騒だね.........」



 オーリングは少し怪訝な表情をしながら声のする方へと歩き始め、その後ろを彼女も着いてくる。



 しばらく歩くとその声の正体が現れてきた。



 どうやら、数人の男が台車の上に乗って暴れているナニかに怒鳴っているようだった。



 近づくと、暴れて必死に抵抗している『ソレ』は真っ白な馬のように見えた。



 ガタン!!ガタっ!バタンッッ!!!



「いい加減にしろって言っているだろうが!!クソッ
お前らコイツどうにかしろっ、どうせ死ぬんだ、今ここで殺っちまっても構わん!このままじゃ、ほかの奴らを連れていけもしねぇ!!」



「ほ、ほんとにいいんですか、お頭...」



「さっさとしないか!!!」



「おい。」



 もう我慢ならないと言いたげにオーリングは普段よりも少しトーンの低い声で一声声をかける。



 そういう声は意外にも響くもので、突然叱られたガキ共のようにびくりと肩を震わせ恐る恐るこちらを見ていた。



「こっ、これはっ、オーリング様!!?」



 彼らにお頭と呼ばれていた男はすぐにオーリングだと気づいたようだった。



 その言葉を聞いた部下たちもざわざわ、オロオロとしだし次々にオーリングの前に跪いていく。



 それもその筈。



 オーリングは王族の紋章の入ったマントを身にまとっている上に、ここら一体の村や町には過去に何度も顔を出し復興に力を注いでいる、



 最早国王の顔より知れ渡っていると言っても過言ではないほど有名なのだかなら。



「私どもは、かつて村が災害で苦しんだ時にオーリング様に全てを救っていただきました!お忘れかもしれませんが、我々はあの日を一時とも忘れた事はございません!!」



「私たちには感謝してもしきれないほどの大恩が御座います!!」



「ここで、オーリング様と出会えたことは運命!今こそ、あの時のお礼をさせていただきたい!!!」



 などと、それぞれが言い始めるものだからオーリングは呆れ、ルミはその光景を呆然と見つめているという傍から見れば可笑しな光景が広がっていた。



 はあ、と一つ溜息をついたあとオーリングは静かな声で彼らに質問をする。



「ったく、そんな格好しなくていいし、感謝もしてくれなくていいから、一体何が起こってんのか説明してくれよ」



 あの物騒などなり声。只事ではないはずだ。



「いや.........あの、ですね...」



 お頭と呼ばれる男は、言いにくそうにもごもごとした後、恐る恐る台車の上に横たわり、尚もガタガタと暴れている「ソレ」に目を向けた。



 オーリングはお頭のその反応を横目に、そこに向かって歩き始めた。



「き、危険です!!おやめくださいっ、オーリング様!!」



 周りの者達がそう叫ぶ中、オーリングは「ソレ」に後一歩で触れれる距離にまで近づいた。



 そこで気付く。



「お前らっ!これ.........
何てことしてんだ、バカか!!?」



 オーリングの目の前にあり、彼を鋭く睨みつけている『ソレ』は





 額に立派な角のある、一角獣──ユニコーンだった.........