「なあ、ルミ」



「?どうしたんですか」



 大きな月を見上げ、二人は寄り添う。



「また、明日会えるかな」



「...はい」



「明後日も、その次の日も?」



「はい、きっと」



「仕事が続いて会えない日もあると思うけど、それでも次の日には会えたらいいな」



「はい」



 はらはらと雪が舞い始める。



 あの頃と同じように。



 ルミアが降らせる雪がしずかに辺りを白く染めていく。



 肌の上に落ちてもなお溶けることのないルミアの雪。



「どんなに辛くても君さえいれば、それでいい」



「私も...貴方の為ならいくらだって闘えます」



 その言葉を聞いてシェイラは少し不安げな表情で、ルミアを見る。



 その視線の意味はすぐに分かった。



「大丈夫。もう死んだりしませんよ」



 第一今回も死んじゃいませんし。生きて戻ってきましたし。



 笑いながら冗談交じりにそう言うが、シェイラは眉間にしわを寄せてなおも不満そう。



「もう...あんな思いはしたくないからな
 今度同じようなことがあれば、俺は迷いなく死を選ぶから」



「え!?」




 突然の宣言にルミアは声を上げ、眼を見開いてシェイラを見た。



「冗談...じゃないです、よね」



「当たり前だ」



 本当に冗談かと思ったが、シェイラの真剣な顔を見てしまえばそんなことを言えるわけもなく。



 おとなしく元の場所に座り込み、肩身狭く膝を抱える。



 しばし無言の時間が続いた後ルミアは思い立ったように口を開いた。 



「私、死んだりしませんよ」



「ルミ...」



「シェイラさんが生きている限り、死んだりしません
 私は貴方を守る騎士ですから」



 シェイラの黄金色の瞳がルミアの藍色の瞳を射ぬくように見つめる。



「私が死ぬは、貴方がこの世から消えたその時です」



「ルミ」



「約束ですよ」



 ルミアはあの頃のように小指を差し出す。



 シェイラも同じように彼女の指に自身のそれを絡めた。



「ああ、約束だ...絶対だからな」



「はい」



 そしてシェイラはそのままルミの手を取り、引き寄せた。



 座ったまま抱き合う二人の真上には、雪に白く染め上げられたサクラ。



 一枚の花弁が、雪と共に二人の目の前に舞い降りる。



「温かいな。雪が降ってるのに、不思議だ」



「雪が降ってるのにサクラが咲いてる、その方が不思議です
 ...でも幻想的で、私は好き」



「うん...俺も、俺も好きだ」



 甘い微笑みを浮かべて好きだという言葉を交わす。



 そんな二人を大きな月が明るく照らしていた。









 ***









 枯れることのないサクラに




 溶けることのない雪が積もるとき




 幼いころの約束が果たされる




 そして新たな約束とともに、二人の、新しい運命が動き出す






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*fin & to be continue