空を覆う、厚い雲が晴れていく。



雲間から除く青に、街を包む光が溶けて、徐々に顕になっていくルシャ王都。



氷で覆われた筈のそこは、太陽の光を浴びるただの美しい街だけが残っていた。



直ぐに、春風が吹く暖かで穏やかなフェルダンの一日が戻ってくるのだろう。



霧が晴れたように辺りがスッキリとした王宮。



広場の中央に倒れるユーベルの元へ、ルミアはゆっくりと近寄った。



闇の魔力を一切感じさせないその体は、力なく横たわり、開いた目からは先程までの力を感じられない。



ただぼんやりと青く澄み渡った空を見上げるだけ。



ルミアが使った光属性の魔法は、闇の魔力を吸収、浄化をするだけでなく、人々の《邪》の心までも取り除いてしまう。



計画が失敗した今、ユーベルの心は空っぽになってしまった。



「ユーベル補佐官」



ルミアはゆっくりとその名を口にする。



「貴方は、私が生きていた頃から優秀な補佐官でした。きっと今でもそうなのでしょう。その命を捧げるに値する主の為、貴方は生きた。私はそれが羨ましく思います」



誰かのために命を捧げることができる、命をかけるに値する誰かが存在する。



それがどれだけの意味を持つか、ルミアは知っている。



ユーベルの頬に、静かに涙が伝った。



「だからこそ、貴方は悔しい筈です。計画が実行できなかったことが。己の死を持って詫びたいほどに。
でもそれは私がさせない、生きて自らの罪を悔いてください」



年老いてシワの増えたよぼよぼの顔が、溢れる涙で濡れていく。



計画を実行できなかったこと、それなのに今ものこのこと生きていること。



それが何よりくやしい。



「貴方はあなたの信じる正義のため戦ったんです。誰も間違っていないし、誰が正しいなんて私には言えません......だけど、私にも命を賭けて守りたいものができた。彼がこの現状を間違っていると言うのなら、私は何度でも貴方に立ち向かう。私はわたしの信じる正義の為に戦い続けます」



ルミアの決意ともとれるそれは、フェルダンの春空の下で、静かにけれど力強く響いていた。






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