ジンノが特殊部隊に正式に入隊することになった時。



一つだけ条件を出した。



特殊部隊の再編成と、それを行う権限をジンノに一任することを。



当時大きな戦闘で年輩の特殊部隊の騎士が大怪我を負ってしまっており、その条件をのむことに誰一人意を唱える者はいなかったという。



ジンノは特殊部隊を一から作り始めた。



現在いる9人の騎士はジンノ自ら引き抜いた者たちなのだ。



ジンノに引けを取らない化物たちの巣窟。



しかしまだ、ジンノの思い描く理想の部隊には後一歩足りない。



長く空席のままだった十番目の席。



そこに座るべき人物は初めから決まっていた。



永遠に埋まることの無いとさえ思っていたそこが、ようやく埋まる。



十番目の騎士。



「これでようやく、新しい特殊部隊が完成する」



目の前で氷の中に美しく立つ実の妹を見つめ、そう言葉を漏らす。



強く美しい、唯一ジンノが認めた最高の女性。



〈ブライト〉ヴェレ・タオフェード



ルミアが印を結び、それを唱える。



すると



彼女の足元を中心に円形の陣が広がった。



「これは......まさか!?」



術の正体が分かったところで逃げることは出来ない。



後ずさりするユーベルへと急速に迫り来るそれ。



瞬く間に、陣がユーベルの身体を捕らえる。



その瞬間



「ギャアアアァーーー!!!」



眩い光がユーベルの身体を包むと同時に、彼の断末魔のような叫び声が宙を切った。



しかしそれはほんの一瞬で。



雄叫びは徐々に小さくなり、やがて聞こえなくなった。



眩い光は王宮を始点として、波のように王都全体に広がる。



これは、洗礼。
闇を滅する最も強力な魔法だ。



氷に捕らえられた黒いローブの男達も、光に触れた場所から消滅していく。



「流石だとしか言いようがないな
......最高だよ、ルミア」



この魔法を、この威力を保って、尚且つ王都を包む程広範囲に使えるのは、そうザラにいない。



それにこの魔法は、闇属性の魔力を持つ魔法使いならば無差別に影響を受ける筈。



だが、ジンノは受けていない。



つまり彼女はこの広大な街で、鷹の目を借りるように全てを把握し影響を与えるべき敵と、そうではない人を選別し、魔法をコントロールしている事になる。



(凄い、ルミちゃん......!)



ジンノに《天才》と言わしめる事がどれだけのことであるか知っているオーリングでさえ、目の前の光景が信じられない。



同時に、美しく変貌を遂げた彼女が《天才》であることを痛いほど実感したのだった。