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ゴホッ......ごホッ......
口の中が血の味でいっぱいになる。
錆びた鉄の味。
何度も味わってきたけど、こんなにむせ返るようなほどはなかった。
赤く染まった雪の上に寝転がり、ルミアはそんな事を考えていた。
自分の真上では殺人鬼がルミアのその姿を見てニヤリと気味悪く微笑んでいる。
ルミアは何一つ身にまとっていなかった。
白く美しい肌が、切り傷と打撲痕とで汚されていく。
溢れる血で赤く染まるその肌を、殺人鬼の手がゆっくりと這う。
「完璧だよ...君は」
美しい。
殺人鬼は何度もそう言って、またひとつ白い体に傷を増やしていく。
切られた肌からは、鮮やかな鮮血が零れ落ちた。
もう、体に力は入らない。
既に視界がぼやけてきてしまっている。
(私...死んじゃうんだ...)
なんとなくそんな気がした。
別に怖くはなかったし、心の中のどこかでそれを望んでいる自分もいる。
後悔も未練も何もない。
そう、思っていた。
―――――――『ねえ、約束だよ』
霞み始める思考の中に、ふとよみがえる彼の声。
―――――――『また明日、ここで待ってるから』
それはつい先日のこと。
てっきり年下だとばかり思っていた男の子が三つも年上だと分かり、先に魔法学中等部を卒業した彼の為に少し遅いプレゼントをした。
『これ...イヤリング?』
そう、プレゼントとは魔導石をアレンジして手作りしたイヤリングだった。
魔導石とは魔法使いたちが自身の魔力練りこみ創ることができる石の事。
魔力が強ければ強いほど作り出される石は、濃く色づいたものになる。
また、魔導石は人に贈られることで、送られた相手が優秀な魔法使いであることの証明となるのだ。
その為、魔導石は身に着けるための様々なアクセサリーとして加工され、魔法学校の卒業式や実技試験の表彰式などめでたい事がある度に魔法使いから魔法使いへと送られる。
それをルミアは、彼の為にプレゼントとして作ったというわけである。
『見よう見まねで作ったから、あんまり綺麗じゃないけど...』
ルミア自身魔導石は兄のジンノに貰っただけで作ったことはなく、今回が初めてだった。
それゆえに形はいびつでとても綺麗とは言いがたい。
(兄さんから貰ったのはすごく綺麗なのに...)
見様見真似ではこれが限界かと落ち込むルミアだったが、目の前の彼をうかがうと、その黄金色の瞳をたたえた目に涙をあふれさせ、不格好なそれも見つめ固まっている。
『き、気に入らなかった...?』
不安になりそう尋ねると、彼はブンッブンッと頭を大きく横に振った。
そして若干言葉につまりながら『...ありがとう...っ』と涙声で言った。
『もう片方は、もっと上手に作るね』
ルミアが笑いながらそういうと、また彼は大きく首を振る。
しばらく彼は片方しかない不格好なイヤリングを見つめた後、それを左耳に着けた。
歪なそれは、ルミアの強大な魔力が功をそうし、誰も見たことがないくらいの黒さを持った物になっていた。
光を受けてきらりと輝く漆黒の石。
初めて会ったころから年月が経ちやけに端正で男らしくなった顔に、それはよく似合っていた。
『ルミ』
出会って暫くたって互いに教えあった名前を、彼が呼ぶ。
『お礼をさせて』
『え?』
思ってもいない言葉に、ルミアは目を丸くする。
『今日はもう時間がきてしまう
また明日、ここで待ってるから』
泣いたせいで赤く充血した目を細め、笑顔のまま自分の小指をルミアへ差し出し、言う。
『ねえ、約束だよ』
何度交わされたか分からない、愛しい人との約束のため、ルミアは差し出されたその指に自身の指を絡ませて答えた。
『うん、約束...必ず行くから待ってて、シェイラ』



