「ねえ!」
ルミアの澄んだ声は、まっすぐに彼の耳に届く。
ビクリと肩を揺らしゆっくりと振り返る男の子。
そんな彼に向かって、ルミアは言葉を続けた。
「明日、私ここに来ないから」
それを聞くや否や、男の子の表情がみるみるうちに悲しげなものに変わっていく。
挙句の果てには、今まで堪えてきた涙をぽろぽろと零していくではないか。
何度も自分の袖で涙を拭うその姿を見て、ルミアは慌ててその言葉の続きを言う。
「あっ...だから、明後日また会おう」
「...っ...え?」
「同じ時間、この場所で待ってるから」
「っ!!」
「約束」
らしくもなく、自らの小指を差し出し約束のポーズを取る。
男の子はそれを見ると顔を真っ赤に染めて、しばらく落ち着きなくキョロキョロとした後、ゆっくりとルミアの元へと近づきそっとその小指に自身の小指を絡めた。
それはほんの一瞬で、直ぐに指を離してしまう。
だが、確実に彼の指の感触は残っていて。
(兄さん以外で、誰かに触れたの久し振り......)
そんなことを考えながらぼんやりと自分の小指を眺めていると、「あのっ......」と小さな声がルミアの耳をかすめた。
それに答えるように顔を上げると、いつ間にそこまで離れていたのかと思うくらい離れた場所に男の子が赤い顔のまま立ってルミアを見つめている。
「あ、あのっ......あの......」
もう授業は始まっているだろう。
それでも、男の子が必死に何かを言おうとしている姿を見て何も思わないほどルミアも薄情ではない。
黙って、彼が何かを言うのを待った。
男の子はなおもオロオロとしていたが、やがて意を決したように目をギュッと瞑り、
「あ、ありがとうっ......!」
と叫び、逃げるように帰っていったのだった。
残されたルミアは目を丸くして、今の言葉を思い返す。
まさか、『ありがとう』なんて言われるとは思いもよらなかった。
もう数年、そんな言葉かけられたことはなかったから。
たったその一言、それをルミアに伝えるため、勇気を振り絞った男の子のことを思うと心が僅かに暖かくなった。



