孤独を恐れ、どんどん縮こまっていくルミの心。
その中に、ぽっと灯りが燈る。
それは徐々に広がり、形を作り始め
そして
──────ルミ
────ルミ、こっちを向いて
───ルミ
──
何度も何度も、ルミの名を呼ぶ。
それは聞きなれた、声で
ずっと聞きたかった声。
『─ルミ、目をあけて』
その声に従い、伏せていた顔をあげ涙に濡れた瞼をそっと開ける。
そこには
『やっと見た』
ここにいるはずのない人が
柔らかく微笑むシェイラがいた。
「...シェイラ、さん......」
シェイラはそっとその手を伸ばし、濡れた頬を拭う。
そして、暖かなその体で、優しくルミを包み込んだ。
『泣かないで......君が泣くと、俺が痛い』
シェイラの腕の中にすっぽりと収まる、ルミの体。
涙を拭ったその手で、彼は何度も幼い子をなだめるように背中をさする。
何度も、何度も
シェイラはルミの名を繰り返し、大丈夫だとささやき続けた。
いつの間にか、体の震えも溢れる涙も止まっていた。
『...ルミ、君の記憶を見たよ』
その言葉を聞き、ルミの体が見てわかるほど、ビクリと固まる。
嫌われる、軽蔑される、そんな恐怖に怯えて。
シェイラにそうされればきっともう、心が元に戻ることはないぐらいボロボロに壊れてしまうことは目に見えていた。
しかし、シェイラはルミが予想していたものよりずっと優しく慈愛に満ちた声で語りかける。
『でも......大事な記憶を忘れてる』
「......え?」
『白亜の女神は君の負の感情を抱いた記憶の塊なんだろう、だけどこれが君の記憶の全てじゃない......
俺の中の君は...笑っていたよ』
シェイラの思いがけないその言葉に驚き、目を見開く。
『怖がらずに、思い出してごらん......君は孤独じゃない
少なくとも俺は君と笑いあっていた、君が居なくなるその日まで』
そういうと同時に、白い空間にふわりと何かが舞っているのに気が付いた。
桃色のそれはおそらく《サクラ》の花びらで。
その隙間を縫うように何かがルミの元へと近づく。
美しいフォルムと作り物のような羽。
誰が見てもわかる、それは《蝶々》だった。
『これは“六花蝶”
君がその美しい魔法で作り上げた雪の結晶から生まれた蝶だよ』
気付けば何匹もの六花蝶が辺りを踊るようにサクラの花びらと共に舞っていた。
雪の結晶をそのまま羽にしたそれは、一つとして同じものはない。
(綺麗......)
これを自分が作ったなんて信じられない。
そんな思いのまま、サクラと共に舞う彼らを見つめていた。
その中の一匹がルミの元へ、壊れてしまいそうな羽を必死に上下させゆっくりと近づく。
そして、それがルミの額に触れたその瞬間
六花蝶が消えた。
まるで空から舞う雪が、手のひらに乗った瞬間水となって消えるように。
同時にルミの頭の中にまた、映像が流れ込む。
しかし、今までのように苦しみは一切ない。
心の中でぽっかり空いていた何かが埋まるような、愛おしいほどの充足感に包まれていった。



